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古本で購入。
松本清張が写楽の正体についての考察を披瀝した講演を収めた本。
いつどこで開催された、何の講演会なのか、明記されていないのは何なんだ。
写楽の正体については諸説紛々である。
曰く、阿波侯お抱えの能役者斎藤十郎兵衛である。いや阿波侯屋敷にいた蒔絵の下絵師だ、白川家門人の片山写楽だ、版元の蔦屋重三郎こそ写楽その人だ…
まさに「謎の浮世絵師」に相応しい。
清張はこれらの説を様々な論証をもって否定する。
そして「思いつき」として語るのが、「写楽=精神病者説」である。
写楽の絵の特徴たるデフォルメは実は絵師本人にとっての正常、つまり視神経の狂いから生じたものだと言う。
清張による写楽誕生の物語はこうだ。
腕のいい浮世絵画工がいたが、彼は悪所での遊びから梅毒に罹患して脳を侵され、視神経が狂う。画工の親方の下を追い出された彼に蔦屋重三郎が目を付け、「東洲斎写楽」として売り出す―
やや小説的すぎるが、ゴッホやゴーギャンとも似通う狂気性、描いた手に見られる異様なまでのデッサンの幼稚さなど、納得してしまう部分もある。
しかし何だかんだ言いながら、清張の結論は「写楽は『写楽』のままでよい。経歴の詮索はやめ、ただその画を見よ」というものだ。
最後にうっちゃった感じもするが、何となくまとまっている気もしてしまう。
清張の多面性が垣間見られる1冊。