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第61回直木賞。
夫が経営する会社が倒産し、親戚・債権者の対応をする妻の話。どうやら著者自身の経験そのものらしく、エッセイと言っても過言ではない。
いざという時の、人間の本音と建前を軽快なタッチで描いている。
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「なんでこうなるの」と一緒に買ってあった佐藤愛子さんの短編集です。
表題のこの話は、佐藤さんの実際の経験をもとに書かれたそうで。
旦那の経営する会社が倒産。
う〜ん、考えただけで目の前が真っ暗になりそう。
だけど佐藤さん(本の中では瀬木さんだけど)は、怒りをパワーに、逆境をパワーにして突き進んでいく。
だけど時々、金貸しの人に「奥さんが責任取ることはない」と優しい言葉をかけられてホロリとしたり。
それにしても強いなぁ。
そんな状況になっても、娘に冗談を言ったりできる強さがすばらしい。
その他の短編では「ひとりぼっちの女史」「佐倉夫人の憂鬱」がよかったかな。
まあ、大体似たような感じの人たち(気の強い妻、気弱な夫)が出てくるんですけどね。
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佐藤愛子さんの短編集。
この本が出たのは1968年。今から45年くらい前ですね。
佐藤愛子さんは1923年生まれ。
明治生まれの新聞記者/小説家/俳人/映画会社社長、だった、佐藤紅緑さんの娘さんである。
この佐藤紅緑さんというのは、僕もちゃんと読んだことないんですけど、「ああ玉杯に花うけて」とかが有名ですね。まあ少年小説、それも戦前の、というのが主戦場だった人だと思います。ブンガク史的には。
この人の子供が、愛子さんのほかにサトウハチローさんがいます。かなり無茶苦茶な私生活だったようで、結婚して子供を作っては離婚して、とにかく3人くらい奥さんがいたそうです。
そして、ハチローはじめ、男性の子供たちはみんな不良の社会不適合者になって、全員もれなく浪費と借金にまみれたそうです。
という訳で、佐藤愛子の文学、という以前に「あの佐藤一家の愛子さんの小説もちょっと読んでみようかな」という興味でした。正直。
で、この佐藤愛子さんも、親の血を引いたのか、エライコッチャな人でした。って何より、2013年現在まだ健在で小説を書いていて、90歳なんです。
戦前に結婚して子供産んで。戦争が終わって別居して事実上離婚。(その最初の夫は病死)。
愛子さんは当時の女性にしては珍しく、ナニモノかになりたかったんでしょうね。文学者を目指して、文学者と恋愛して、再婚。
やっぱりドウ考えてもヒトカドの人物でありセレブであったお父様・佐藤紅緑の影響は、そりゃあったでしょうね。
夫はその後会社を経営するようになる。
愛子さんは芥川賞候補になったり。40代に入って、小説家になる。
で、夫の会社が倒産。大借金。愛子さんも大借金を背負う。
「借金から身を守るために」と夫に言われ離婚。
小説を書きまくり、直木賞。
タレント的活動もして八面六臂。で、借金をなんとか返済。
老後もエッセイなど旺盛に活動中。という、人なんですね。
とにかくプライド高く勇ましく、男気溢れる女性ですね。
さて、短編集「戦いすんで日が暮れて」。
大前提は、”借金苦労私小説” ですね。正直、やっぱりソレがいちばん面白い。
冒頭3篇が、まあ正直、まとめて1篇のような完全同工異曲。
どれも、「プライド高く勇ましく、男気溢れる女性」が、借金に怒り、夫に怒り、全てに怒り、ときどき泣く、というお話。
これが、エラソーな訳ではなくて、自虐的な諧謔に満ちていて、その隙間に哀愁が顔を覗かせる、という仕掛けができています。
とはいえ。
そんな合間にチョットやっぱり、
「精神的な上から目線」
みたいなものは感じちゃうんですけどねー。
自虐しながらも、やっぱりきっと、気高く教養人で成功者であった父親、その愛娘で、客観的に教養あって頭良くて度胸がある自分。
カマトトぶらずにヒトとしての中身で勝負、がアタシの持ち味。だって中身で勝ってるもんネ。・・・と、いう、批判精神は香ってきますね(笑)。
なンだけど、イヤミにならないのは、そンな主人公が借金苦に落ちている中年女だからなんで���ね。気高い女が「アタシは惨めよ!ええ!惨めですよ!」と怒っているという。そのねじれ構造が、娯楽になっているし、味わいになっていますね。
完全私小説的な冒頭3作以外では、僕は「結婚夜曲」は、面白かったですね。
男性主人公のものは、矢張り女性主人公のモノよりは、ちょっとどうかな、と思う感じもあります。
でも、コレダケ風俗小説なのに、45年を経てクスリと時折笑わせてくれるのは、語り口と文章の技ですねえ。
僕は多分、この後佐藤愛子さんをイッパイ読むことは、まあ無いかなあ、とは思います。
(でも、紅緑やハチローを描いた「血脈」はチョット興味あり)
どうしてか、という考察までは面倒でしませんが、
多分、佐藤愛子さんは「エッセイ風私小説」や「エッセイ」の方が面白いんだと思います。
それも、例外はあるでしょうが、女性読者にとって面白いんだと思います。
なんででしょうかね。感情が豊かで感情的なんだけど客観的に自分を見れているからですかねえ。
でも一方で、現実に対して感情が豊かで感情的過ぎて、多分、この人はとってもとっても現実的な人で、
創作的小説家の夢想的なトコロ、があまりにも無いからなのかなあ。
わかりませんが。
ちなみに、「戦いすんで日が暮れて」という文章自体は、有名な唄「戦友」の一節ですね。
「ここはお国を何百里~」という、アレです。
このタイトルは秀逸だと思います。
佐藤愛子さんの勇ましさと、でもそれが苦戦であるという哀愁と、旧軍隊の唄であるという確信犯の時代錯誤性、滑稽味がよく出ています。
だからといって、佐藤愛子さんが単純に右翼で軍国主義であるかというと、ソンなことはマッタクないですね。
ただ、戦前の日本男子の勇ましさ、男らしさ、みたいな「幻想」というか「虚構」というか、「佐藤愛子さんの脳内に存在する概念=要は父親さんでしょうね」には敬意を持っているんだと思います。
(実際に戦前の男性が勇ましく男らしかった、という議論はいずれにせよ客観的に証明できるわけではないでしょうが、僕は否定的です。威張っている、権威的である、自己を盲信している、ということと、勇ましさと男らしさは違うでしょうから)
ちなみに唄「戦友」。コレ、軍歌ではないですから。日露戦争の悲惨さを歌った一般歌謡だったんですね。だから、悲愴感、厭戦感も入ってるんですね。
だけど、名曲なのでしょう。世間でも、軍でも、流行してしまった。スタンダードになった。
だから昭和の十五年戦争期に軍では禁止されてるんですね。
でも、禁止後でも軍でも歌われてたみたいですね。
歌って、面白いですよねえ。
まあしかしでも・・・やっぱり、それが諧謔に、自虐しているとはいえですね。
ずーっと、上から目線で相手を批判して悪口を言うニンゲンを鑑賞させられるのは、
ちょっと僕は疲れるかな・・・。
ま、そのへんが佐藤愛子さんの嘆かれる、当今の日本男児の情けなさなのかも知れませんが(笑)。
で、そのへんが女性には痛快なのかも知れませんが。
以下、それぞれの編の備忘録。
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「戦いすんで日が暮れて」
主人公はプライド高く勇ましく、男気溢れる40代女性。「私」。
小説家、雑文家である。講演やテレビ出演もする、タレントである。
夫の経営する会社が倒産。巨額の借金を背負い込む。
お人好しで弱気な夫に怒り、理不尽な債権者に怒り、態度を変える知人たちに怒り、金のために仕事をする自分に怒る。
そんな日々の雑感が、主人公の自己性格紹介の如くにある。
そして、金融業者に同情されるとつい、泣いてしまったりする。夫は戦略的離婚を言い出す。
そして、娘とふたりで環七の歩道橋から「バカヤロー!」と叫んで終わる。
「ひとりぼっちの女史」
主人公はプライド高く勇ましく、男気溢れる40代女性。「高山」あるいは「高山女史」。
漫画家である。講演やテレビ出演もする、タレントである。
夫の経営する会社が倒産。巨額の借金を背負い込む。
お人好しで弱気な夫に怒り、理不尽な債権者に怒り、態度を変える知人たちに怒り、金のために仕事をする自分に怒る。
そんな日々の雑感が、主人公の自己性格紹介の如くにある。
そして、借金取りから逃げるために、編集者に嘘電話を頼む。だけど上手くいかなかったりする。強気な家政婦に見下され辞められる。
小学生の娘、その友人たちにまで怒る。家財道具まで持ち出すと言い出す債権者が来る。逆ギレして同情され助かる。
間違い電話で大人の玩具のセールスマンから電話がある。そのセールスマンに同情されちゃって涙を流す。
「敗残の春」
主人公はプライド高く勇ましく、男気溢れる40代女性。「私」。
小説家、雑文家である。講演やテレビ出演もする、タレントである。
夫の経営する会社が倒産。巨額の借金を背負い込む。
お人好しで弱気な夫に怒り、理不尽な債権者に怒り、態度を変える知人たちに怒り、金のために仕事をする自分に怒る。
そんな日々の雑感が、主人公の自己性格紹介の如くにある。
夫の会社の運転手で最後まで支えてくれた、加山という男から電話がある。
夫が、加山に渡さねばならぬ義理の金があった。ところが夫は、それを競馬でスった、と聞かされる。
情けなくなって怒って、肉饅頭を夫にぶつける。勿体ないから拾って、その肉饅頭を債権者に振舞う。
知人のプレイボオイに、映画に誘われる。手を握られる。
自分は40代で大借金を背負った女なんだ、と思う。礼は言うが断って帰宅する。
「佐倉夫人の憂愁」
主人公はプライド高く勇ましく、男気溢れる40代女性。「佐倉夫人」。
夫は画家。佐倉夫人はピアノ教師。
家の二階に「西郷くん」という慶応の大学生を下宿させる。
この西郷くんが、なんとも安全主義でエリート主義で冒険心がなく、夫人の気に食わない。
エリートだからうかつに恋愛もできぬ、と西郷は言う。童貞ですよ、と恥じない。
情けない、若い男は年増にでもサッサと童貞を捧げるべきだ、と論ずる。
ぢゃあ、お願いしますよ、と西郷に気軽に頼まれてしまう。そうなると傷ついたりする。無論��る。
やがて西郷が若い女を連れてくる。なんとこの女性と金銭で性欲を消化する契約をしているという。
「成程、奥さんの言うとおり、童貞なぞ不要ですね」と言われる。
佐倉夫人は、最近の日本男児はこれでいいのかと、怒ったり黙ったりする。
「結婚夜曲」
主人公はプライド高く勇ましく、男気溢れる40代女性。「私」。
主婦である。夫は証券会社である。夫は能力と野心と幸運が欠けていて、前歯も欠けている。成績は落ちている。
「私」は、風采上がらぬ夫に、「浮気の一つ、愛人の一人くらい作ってみやがれ」と言うような威勢の良い妻である。
夫は日々無気力に、テレビばかり見ている。
アヤリさんという女学校の後輩が、エリート銀行員の妻になり金持ちである。
「私」はアヤリさんを口説いて、夫から株を買わせる。
しばらくは上手く行く。アヤリさんは株にのめり込む。
夫は成績が上がる。気力溢れてくる。テレビなぞは見なくなる。
そのうち、上手くいかなくなる。アヤリさんは大損をする。夫の成績は落下する。
主人公の家に抗議に来る。「補填してくれなくては、夫に離婚されてしまう。黙って夫の金もつぎ込んでしまったのだ」と。
主人公は、夫とアヤリさんとが、男女の関係なのでは疑う。嫉妬して怒る。
夫は親類に借金をして、アヤリさんに支払う。
夫は再び、日々無気力に、テレビばかり見ている。
「マメ勝ち信吉」
主人公は映画会社のプロデューサーである「信吉」。男性である。
中年で独身で女好き。でも風采は上がらないので、心情は、マメに口説くことと、女を笑わせて安心させることである。
バーの若い女に入れあげるが振り回されてお金ばかり使ってしまう。
年増の未亡人を、つい、口説いてしまってモノにしてしまって、ついつい結婚してしまう羽目になる。
なんだけど、もう次の女に目移りしたりしている。
「ああ 男!」
主人公は若い男。映画会社のアシスタント・プロデューサーである。
擦れっ枯らしの業界では、あまり言えないが実はかなり純情である。
ヤクザな脚本家とよく、ふたりで旅館に篭って台本を作る。
脚本家に引っ張られて、旅館でカップルを天井裏から覗いたりしている。
主人公には惚れた娘がある。新人のまだまだ売れない女優である。
この女優に、やはりヤクザな大プロデューサーとデキているという噂が立つ。
主人公は信じたくないし女優も否定する。
なんだけど、ある日脚本家と覗きをしていると、その女優とその大プロデューサーが逢引していました。ちゃんちゃん。
「田所女史の悲恋」
主人公はプライド高く勇ましく、男気溢れる40代女性。「田所女史」。
美容院チェーンを経営する経営者であり美容師である。
講演やテレビ出演もする、タレントである。独身である。
この田所女史が、自分の雇っている社員のひとりである二六歳の園部君に恋をする。
だから、どこぞの店長に抜擢しようとする。
園部くんに言い寄ったりするけど、やっぱり言い寄れない。恋心は伝わらない。伝えられない。
ところが園部くんは、女��を恐るばかりである。
その上、園部くんは抜擢を辞退しようとする。園部くんは同僚に恋をしている。その同僚女性を却って推挙する。
女子はイタク傷ついて、その同僚女性をクビにする。強権的に園部くんに抜擢を承諾させる。
女史は園部くんを支配して君臨できてしまう。でも恋心は伝わらないのだ。
全体に女史と、秘書であり友であるトモヨの会話で描かれる。
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解説:今官一、直木賞
戦いすんで日が暮れて(直木賞)◆ひとりぼっちの女史◆敗残の春◆佐倉夫人の憂愁◆結婚夜曲◆マメ勝ち信吉◆ああ男!◆田所女史の悲恋
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図書館で。
佐藤愛子さんの自伝のようなフィクションも交えたような倒産と借金のお話。破産宣告しちゃえば確かに財産管理人だかなんだかにゲタを預けちゃえば良いんだろうけど。そうもいかない人情と人と人のしがらみがあるというんだろうけど… 借金背負ってさらに元気になるってパワーが素晴らしい。やっぱり手に職持っているというのは強いんだろうな。
というわけでどうにもあまり色っぽくない話ばかりでそれも面白かったり。
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状況が最悪とはいえ、口汚い妻の罵りひどすぎる。人の尊厳もなくこんな言われようしたら、男でも女でも余計ダメになる。借金を返してあげるのもかえってよくないし。
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まぁ豪快というか何というか。
男には書けない作品だけど、女性が書くにはそれこそ豪傑でないと世の袋叩きに合いそう。小説の内容よりもこれを書いた人物の怪獣ぶりに献杯。
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全く今まで読んだ事のない作者さん。
表紙を見せて置かれていたので本屋さんのおすすめかと思って購入。
読み始めてすぐに思ったのは昭和の戦後、昭和30年代の話し?今どきこんな夫婦はいないよね、と。
なんだか常にバタバタ、ゴチャゴチャしている感じなのに人、特に旦那さんへの観察眼がするどくて。
小説は作者の実経験がもとになっているそう。
作者さん自身に興味を持った。