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初期の短編を集めた一冊、どれも軽妙に皮肉は利いて捻りがあり、読み易い上に面白い。更に、訳は福田父子という取り合わせ。
文芸創作者としての構成力、美文家としての筆力、人としての知識見識、時代の寵児としての自負、芸術家としての哲学:美学、いずれも豪華に備わって在る。文芸の様々な分野に才を見せたことは此の一冊からも窺い知ることが出来る、例えば『W・H氏の肖像』はShakespeareの『ソネット集』を軸に据えた、文学評論とも、"MR. W.H. " の正体を追究するミステリィとも、故に人の深層に迫る哲学/心理学とも、或いは偏執的蒐集癖に応える趣味の作とも見做せる。読書としてはとても贅沢且つ豪快な大盤振舞だ。
此の才を、生命を、たった中年で人類から奪った英国と、愛人と、彼自身との罪は大きい。
[収録作]
・アーサー・サヴィル卿の犯罪(1887/11)
・カンタヴィルの幽霊(1887/03)
・謎のないスフィンクス(1887/05)
・模範的百万長者(1887/05)
・W・H氏の肖像(1889/06)
・散文詩(1894)