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第63回直木賞。
戦時中の戦地での小隊に起こった5つの話。いずれも戦争そのものの話がメインではなく、やむなくあるいは故意に隊を離れた兵士をクローズアップしている。
陸軍刑法では、敵前逃亡など死を覚悟で戦わなかった者は死刑、という、どっちにしろ死ぬんじゃん!というむちゃくちゃな法律があった。本書は、著者がそうした経験のある人を取材するスタイルで書き進められている。ただし、人名や地名などは架空のものを用いている。
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イメージ参照(http://blogs.dion.ne.jp/kentuku902/archives/4175280.html)
直木賞(1970上/63回)
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1973年刊行(初出1969~70年)。戦後、軍法会議による受刑者の恩赦決定に関与し、その裁判記録を渉猟した経験を持つ著者。本書は、日本陸軍における軍法会議決定、前提となる戦場での不条理さを暴こうとする小説。一応、当該訴訟資料と関係者の取材を基にしているらしい。まず、敵による負傷により捕虜(投降ではない)となった後、敵軍から逃亡・帰隊した兵士への敵前逃亡罪・死刑判決に唖然。こういうのがあるから帰隊せず、敵軍(中国戦線)の兵士に寝返るケースの多さ。投降⇒奔敵化を助長したことを慨嘆する兵士の言が生々しい。
が、やはり本書の卓抜箇所は、敵前党与逃亡・食人問題案件。糧食なく、友軍への(特に他の部隊への)強窃盗、これへの反撃・殺害事件は日常茶飯事という逸話に加え、「野火」同様、極限状況下での味方兵への食人疑惑が登場。また、この特殊状況とは別に、自己の不利益証言が顕在化しにくい実情も明瞭に。(本書列挙の関係者証言の総合すれば、おそらく師団参謀の命によるのだろうが)、軍法会議未開廷のまま処刑を連発した案件。本書列挙の関係者らの当該案件に対する戦後の数々の証言の捻れ具合を見れば、先の事実がよく判るはず。
証言心裡・叙述心理を少しでも知れば自明だが、自己に不利な内容はなかなか話されない。これは議会証言等という公の場の発言でなくても妥当し、南京事件・イラクやベトナム戦争等、あらゆる体験録・証言録を検討する上で、自己に有利な発言の信憑性の判断にあたっても、示唆に富む。