紙の本
現代を生きる不安と憂鬱
2008/04/05 07:25
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:cuba-l - この投稿者のレビュー一覧を見る
改めて説明するまでもないが、映画ブレードランナー(原題はアンドロイドは電気羊の夢を見るか)やトータルリコール(原題は追憶売ります)の原作で名高い作者の初期に書かれた短編集だが、本書でも印象的なのは荒廃した未来のイメージだ。
それはこの作品が書かれた頃の、東西対立や核戦争の不安と隣り合わせだった時代の空気を反映しているのだともいえるだろう。
すべての話がすさんだ未来の場面や退行の予感を描いているわけではないが、どの作品にも人間の進歩や前向きな努力の裏に潜む挫折、衰弱、失意、焦燥、虚脱といった負のイメージがまとわりつく。
とはいっても暗い話ばかりが並んでいるわけではない。皮肉と時にユーモアをたたえた単純に面白いファンタジー系の読み物として秀逸であり、それが没後も人気作家として支持を得ている理由でもある。
本著の「森の中の笛吹き」などは絶えざる競争と努力を積み重ねてきた「まっとうな」人間たちが、あるとき自分は植物になったと信じて社会的な義務を放棄して静穏に暮らすようになる話だが、常にアドレナリンを放出して目標を掲げては前向きな努力と前進することを唯一の善とするような現代社会においても、十分なアイロニーと魅力を放つ。
だから、この短編集はかつての東西対立や核戦争不安のあった時代雰囲気を色濃く反映させながらも、諸作品にまたがる通奏低音のようなイメージの連鎖が、現代を生きる私たちを覆う不安と憂鬱をも貫いて響いてくるようだ。
ディックの描く荒廃した都市や日常の光景に私たちが見るものは、現代社会に疲弊した私たちの不安と減速願望の写し絵なのかも知れない。
疾走する現代社会に疑問を持った人や疲れた人にもぜひ一読を勧めたい。
紙の本
ディック初期の短編集
2003/07/01 13:37
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投稿者:まゆ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ディックの短編の魅力は、突飛な発想と余韻を残す結末。
それがこの短編集でも存分に発揮されています。
「薄暮の朝食」…冷戦時代に書かれた話ですが、現代でも十分通用する話です。通用するような世の中であることは残念ですが。たくさんの人に読んでほしいです。
「地図にない町」…存在しない駅への切符を買おうとする男。現実のあやふやさに気づいた時に、本当に大切なものがわかったという話だと私は解釈しています。
その他の作品「輪廻の豚」、「クッキーばあさん」などにもディックらしさがあふれています。
翻訳の言葉使いが少し古いですが、それもまた味があってよいです。
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P.K.ディックを最初に読んだのはこれでした。
これにかなり刺激された覚えがあります。
でもこれはSFではないんですよね。早川ノベルズ文庫なんです。
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おそらく、現代の人たちが読んだら十中八九、「斬新なアイデア」だとは感じないでしょう。これは、どこかで聞いたことのある話の集合体。「発想が奇抜じゃない」時点で、この小説の価値を否定する人がいると思います。でも、アイデアだけが、作品の価値を決めるんでしょうか。人が造ったものは、大抵似通ってるんじゃないか、とも考えたりします。紋切り型の批判、形を少し変えただけのラブ・ストーリー、繰り返される「流行のファッション」。ある程度取捨選択しながらも、僕らはそれに魅力を感じている(でなきゃ“ベストセラー”“完売御礼”なんて言葉は、とっくに死語になってるんじゃないかな)。どうしてでしょうね?理由は色々あるでしょうけど、これって、同じような人を何度も好きになるのと似てますね。好きなタイプの短編集です。
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期待しすぎたかなぁ。
オイラの読解力がなさすぎてイマイチ理解できなかった作品もあったってのも大きいんだけど・・・。
面白かったのは『猿の輪廻』『クッキーばあさん』。
特に『クッキーおばさん』の結末が怖くて哀しく、印象づよい。
この作者、ゴチャゴチャした書き込みなんか全然無いのに、妙に風景やら動作の描写が印象深かったりするから不思議。
シンプルだけど(故に?)繊細で美しい。そんな感じ。
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ジャケ買いしました。読みやすい話と読みにくい話があります。確かに、未来への不安を感じるSFでした。何個かのストーリーは途中で挫折。
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ディック幻想短編集
フィリップ・K・ディックの初期作品集である。何度も書いているが、私も好きな作家であり(4/1の記事参照)多くの映画化が有名な作家である。
SFというよりはミステリーといった感じの作品集全12編。もちろん、いずれも楽しいものばかりである。いずれもハッピーエンドにはならない皮肉っぽいラストが新鮮である。長編では冗長になりすぎたりするディックだが、短編は非常にリズミカルであり主題がわかりやすいから読みやすい。
おもちゃの戦争
薄明の朝食
レダと白鳥
森の中の笛吹き
輪廻の豚
超能力者
名曲永久保存法
万物賦活法
クッキーおばさん
あてのない船
ありえざる
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ディックの初期作品集。「アンドロイドは~~」こそ有名だが、このような小さなけれど確実なディックの作品も読むのがホントのSF者なんです。早川さんもきっと読んでるでしょう。ほんと。
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二冊目のディック。不思議な世界が現実を侵食していく様が巧いなと思った。
中で気に入ったのは「薄明の朝食」「超能力者」「地図にない町」。
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ディックの初期の短篇集。短編というよりも、ショートショートというレベルで短いものもある。前半は戦争を核にした物中心で、面白いのだけれども訳が「翻訳」的なため、数回戻って確認する事もあった。
中盤から怪談的な作品、実験的な作品が多くなり、ものすごく面白くなる。楽譜を生物にするとか、靴に生命を与えるなんて言うアイデア、誰が文章にしますか?しかも短い文章の中で、そのアイデアだけで終わらず、そこから発展していくんだから、ディック作品はやめられない。
訳がいまいちだった作品の分、星一つ減点。
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ディックの初期の短編が詰まった一冊。SFというより、ブラッドベリのような幻想的な作品が多い印象がある。だらだらと間延びせず、ショートショートのような簡潔さは読みやすいが、個人的には心に残る話は無かった…。
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2017年って過ぎちゃったけど、50年前にこれだけ核戦争を想像して短い物語にまとめちゃうのってスゴイ!!ばあさんのところに行った子供はどうなった?とか、1つ読んだら、一度考えたり味わったりしてから次のストーりーに進む。贅沢な時間だったなぁ。
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SFあり、ちょっとダークなファンタジーあり。ディックにしては割りとストレート(一般の方にはそうでないかも)な短篇集。とにかく読みやすい。スラスラ読んで行き、最後の一行で「ストン」と落とされる快感。しかもほとんどが幸せな結末ではないあたりにディックらしさが漂う。やはり表題作が秀逸。
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《目次》
・「おもちゃの戦争」
・「薄明の朝食」
・「レダと白鳥」
・「森の中の笛吹き」
・「輪廻の豚」
・「超能力者」
・「名曲永遠保存法」
・「万物賦活法」
・「クッキーばあさん」
・「あてのない船」
・「ありえざる星」
・「地図にない町」
・訳者あとがき