投稿元:
レビューを見る
マクベイン『87分署シリーズ』の第四作目、犯人を追い詰める手に汗握る描写と登場するキャラクターの行動を情感たっぷりに描いた筆致は、本作で完成形を見せます。
詐欺事件と殺人事件が交錯するアイソラの街で独身女性の水死体が次々と発見され、いずれも拇指と人差指のあいだにはハートの刺青が施されていました。
ハートの中には『MAC』の文字に、『NAC』の文字。これが意味するものとは…。
本筋の殺人事件とは関係がありそうで、伏線のように織り込まれている詐欺事件の描写が、物語を読み進めていくうえでの箸休めのような役割を果たしています。
また、何度も犯人と接触していながら、成り行き上、そこで犯人と断定することは不可能であったと読者に開示してしまう辺りは、作者の潔さを感じました。
特筆すべきは、三作目において『死んだ』とされたクレア・タウンゼントが、本作では生前の元気な姿を見せてくれているのです。
本作の見所はなんと言っても、物語のラスト。スティーブの妻、テディ・キャレラの大活躍に尽きるでしょう。
彼女が勇気を振り絞って犯人の跡を追うラストは、圧巻の描写です。
バート・クリングが、自分に腹を立てる恋人を見て『クレアは怒るとすごく可愛い』と思うシーン。
思わず、『分かる!』と声を上げて言いたくなるような場面が、読了後の今も心に残っています。