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・太平洋の戦線で捕虜となり、ハワイの収容所で対日謀略宣伝に従事した人たちについて書いた本。
・それぞれが捕虜となったときの状況がとても興味深い。紹介されるケースの多くは、敗戦を予測し宣戦を離れた=逃亡に近いもの。つまり逃亡しなかった兵士達の大多数は玉砕しているということで、戦陣訓の影響の強さが伺われる。
・現代の我々から見たら、ジュネーブ条約について知識があったり、近代戦なんだから玉砕なんか避けて投降すればいいじゃないか、と簡単に思える。本書に出てくる捕虜となった人々の中には、ジュネーブ条約に対する正しい知識を持っているものもいて、意外だった。
・しかしついさっき洞穴の入り口を火焔放射していた米軍に、ジュネーブ条約を盾に投降する、なんてのは前線にいないから口に出来る感覚だと良く分かった。必ずしも戦陣訓だけじゃない。今友軍を殺した相手の懐に飛び込めないなんて当たり前に決まってて、玉砕と同じ程度の決断は必要だったのではないかと思う。洞穴に留まり爆破された例をみてもまさにその通りだと思う。
・捕虜になった後の心理の動きもすごく興味深い。進んで米軍に協力した一部の捕虜を売国奴と言うのは簡単だが、生きて日本へ帰るには現行の体制が崩壊した後に帰るしか方法が無いと信じたのは良く分かる。
・文化学院の建物を使った駿河台研究所のオランダ人コック、てのは西村伊作の娘婿のことだと思ってニヤリ。
・宣伝ビラが実際どれだけの効果を持ったか気になる。庶民の厭戦感を呼んだかもしれないけど、結局終戦の引き金は原爆を引き金にした聖断であって、実際の国民の動きで終戦になったわけじゃない。本土へのビラの効果については疑問。実際はB29の焼夷弾の方が効果絶大だっただろう。ビラで言われなくても、本土空襲の上を見れば庶民は気づいていたはず。
・ポツダム受諾についてのビラだけは性質がちがってて、その効果を本書も説いてる。だとすると、大本営の偽報を暴く謀略宣伝を初期から行っていれば効果があったのか?などと考えたけど、本土にバラ撒く手段は初期には無かったので、これもありえないIF。
・米軍が撒いた運賀無蔵の豆冊子、読んでみたい。