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紙の本
フォーサイスの思い入れたっぷりのアフリカ
2002/08/23 08:46
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は60年代にアフリカを中心とした独立戦争で活躍した傭兵たちの姿を描いたものである。傭兵といっても日本人のわれわれにはピンとこないが、要するに戦争のプロで、その腕を見込まれて金で雇われる人々のことで、もちろん命をかけている。
戦争がなくなれば彼等は失業してしまうわけであるが、残念ながら地球上のどこかで必ず武力紛争が起き、それが絶えないのも事実である。
大国同士の戦争はなくなったが、新興国同士あるいは内戦は跡を絶たない。本書のストーリーの大筋は、鉱山会社を傘下におさめる英国の大資本家が、西アフリカの最貧国であるザンガロにプラチナの鉱脈があることを発見して、極秘のうちに政府転覆を仕掛けたというものである。
大資本家は自分に都合のよい傀儡政権を樹立するために、現政権の打倒を決意したのである。部族間の対立、移民労働者の台頭、私腹を肥やす大統領、宗主国が築き上げた産業の芽を育てられず、どん底にあえぐ経済など、どこにでもそのモデルは存在するような気がする。
それなら独立せずに宗主国の統治下で植民地政策を甘受するか。しかし、そうはいかない民族主義の嵐がアフリカに吹き荒れたのである。
ストーリーは主人公である傭兵のリーダーとその仲間たちが、兵器、装備などの準備を整える状況を描くのにその大半が費やされている。やや執拗な描写であるが、なかなか興味深い点も少なくない。それがストーリー進行の主たる位置を占めており、淡々と書かれているので、退屈される向きもあろう。クライマックスであるはずのクーデターの場面はあっという間に終わってしまうので、期待外れという批評もあるであろう。
本書は『ジャッカルの日』や『オデッサ・ファイル』同様、映画化されているが、前二者に比べると娯楽性やストーリー展開という点で制作者や監督は苦労したのではないだろうか。
普段触れることの少ないアフリカの現実、戦争の空しさを読後に感じることのできるという点で、貴重な経験をしたような気がした。作者のフォーサイスはかつて『ジャッカルの日』の印税をつぎ込んで、赤道ギニアという実在する国家のクーデターにかかわったことがあるという説があるが、本人は黙秘を続けているようだ。
コンゴ内戦の際に記者として現地で取材をした経験を持つフォーサイスにとっては、アフリカにおける無能で私服を肥やす独裁者の存在という理不尽な現実に我慢ができなかったのかもしれない。この小説はそのフォーサイスの思いが下敷きになっていることは間違いがない。
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