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紙の本
今世紀イギリスを代表する詩人、批評家、劇作家、T・S・エリオット曰く、《最初の、最大にして最良の推理小説》
2002/02/28 23:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
インド寺院の神像に飾られている秘宝《月長石》。戦乱の最中に、英国の軍人によって略奪された類希なこの宝石は、関わる者すべてに災いをもたらすという警句と共に、イギリスに暮す若い女性の胸に飾られることとなる。だが、《月長石》は一晩のうちに、彼女の寝室から消失してしまった。この秘宝の行く先々には、必ず3人のインド人の姿があって……。
文豪ディケンズと、ほぼ時を同じくして活躍したイギリスの小説家。生涯の友となったディケンズとは、12歳も年下であったが、彼の才能はディケンズに大きな影響を与えたという。父親は、当時高名であった風景画家のウィリアム・コリンズ。弟のチャールズも画家であり、ディケンズの娘と結婚している。人気の面では、ディケンズを凌ぐ勢いであったコリンズだが、文学史上での評価は遠く及んでいない。一説として、ディケンズは、庶民を描く視点の持ち主であったのに対し、コリンズの視点は、上流社会から離れれることが出来なかったため、といわれている。
ディケンズ未完の大作『エドウィン・ドルードの謎』に先駆けること2年。1868年に出版された本作は、《物語的興味と論理的推理が融合した》古典的名作として、高い評価を受けている。ディケンズが、本作に対抗して『エドウィン・ドルードの謎』を書き始めたというのだから、当時の文壇に与えた影響も相当に大きかったことが推測される。
呪いの宝石や、3人のインド人など、後々の作品にも多く見られるオリエンタル趣味に彩られたエンターテイメント性の高い物語と、《月長石》消失の謎の解明に向けて、推理による論理的な解答へと集束していく純粋なミステリが、バランスよく対となっている。数人の人間による手記の集合体という形式で書かれており、一つの事件が、彼らの感性や性格などによって異なる様相を見せながらも、最終的には見事なまでに一冊の小説として統合されている。コリンズが、構成力の点では、ディケンズを上回るとの評価を受けている所以だろう。
手記のリレー形式で書かれた本作の面白さは、見識、知性、目線、社会的立場、性別、年齢、事件との関わり、などの違いによって、宝石の消失という事件が万華鏡のごとき色鮮やかな様相を見せる点にある。
第一章は、齢70を越す老人が書いている。彼は、『ロビンソン・クルーソー』を生活の指標としている人物で、事あるごとに煙草のみが煙草を欲しがるように本を紐解いては、本文の中から思惟に溢れた一文を見つけ、自分の行動を律する。忠義心に厚く、登場人物の多くと友人として関わることから、物語の中心的な役割を担っている。彼の描写は、ディケンズの登場人物にも比肩するレベルであるとされている。
他の章を担当している人物たちも、どこか変に固執している性格の持ち主ばかりで、出来事を正確に描写するという役割を越えて、手記の中で自らの主義主張を声高に叫んでいる。時代を感じさせるものがあったり、現代に通じたり、と面白い。
物語の序盤に、超能力を持った少年によって、インド人3人が今後の行動を決定しているシーンが登場する。人の行動を予測するというこの能力は、その後まったく登場しないが、コリンズの生きていたヴィクトリア時代には、不思議な現象や超能力の存在が信じられていたという。
現代の小説に登場する、ヴィクトリア時代の超能力と同様の立場とも言える技術の一つに、90年代の前半からはミステリにも定着した感のあるDNA鑑定が挙げられるだろう。つまり、技術のレベルによって、普段の能力を越える存在が《超能力》《DNA鑑定》と異なってくるだけで、技術の進化によって否定される能力もあれば、得られるものもあるというだけなのだ。それに、科学的な事実だからとすべてを肯定しまうのもつまらない。
紙の本
人物が描かれた探偵小説
2005/03/04 18:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:死せる詩人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
イギリスの文豪チャールズ・ディケンズと同時代の作家コリンズによる長大な推理小説です。コリンズは卓抜した構成力を持つ小説家で、本書でもその筆力を遺憾なく発揮してます。
本格推理小説を批判する言葉として「人物が描けていない」というものがありますが、この小説に関して言えばそれは当てはまりません。筆者は様々な登場人物を色鮮やかに描き出し、物語に華を添えています。分けても、最初に視点人物として登場する執事のベタレッジ翁は、物語を支える重要な人物として生き生きと描かれています。
類い稀な宝石・月長石を巡るミステリは二転三転し、幾多の回答を経て最終的な真相へと至ります。コリンズの滑かな筆致は、推理小説家・論評家として有名なセイヤーズをして『最良の探偵小説の一つ』と言わしめるだけの事はあります。
紙の本
月長石と書いてムーンストーンと読む
2017/05/17 21:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
過去にインド寺院から奪われた月長石が現在の持ち主から盗み去られた。 長い長い話だが、語り手を変えていくという手法のおかげで、ぎりぎり中だるみせずに読めました。一応探偵役は出てくるのですが、全編にわたる活躍はしません。登場人物が協力して事件を究明していく内容となっています。
紙の本
世界最初の長編推理小説
2019/01/29 06:27
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投稿者:KTYM - この投稿者のレビュー一覧を見る
英国の小説家ウイルキー・コリンズ(ディケンズとほぼ同時期に活躍し、ディケンズとも親しかった様です)の手になる1868年の作品。T・S・エリオットが「もっとも早く書かれた、もっとも長い、もっともすぐれた推理小説」と評したそうです。その分量(文庫本で750頁超、しかも小さめの活字がびっしり)と古色蒼然とした佇まいに恐れをなし、これ迄手を出せずにいたのですが、意を決していざ読み始めると、これが面白い。バラモンの神像に由来する、手に触れた者には災いが降ると言い伝えられる「月長石(黄色いダイヤ)」の紛失と、貴族令嬢の不可解な行動にまつわる謎を縦軸に、19世紀英国らしい韜晦に満ちた語り口で語られる物語は目を離せません。人間性への深い洞察に裏打ちされたユーモアも最高。キリスト教の精神によって人々の救済を目指すクラック嬢の手記の部分は、爆笑ものです。後半は少しだれますが、複数の登場人物のリレー形式での手記によるり、少しずつ真相が明らかになってくるなど、語り方にも工夫がされています。
推理小説としてみると、ダイヤモンド紛失の謎をめぐって物語が進行し、最後に意外な真犯人が明らかになるのですが、メインのトリックが現代の眼から見ると説得力がなく、都合のいい説明を後から付け加えているようにしか見えず、物足りません。ポオによる創出後、推理小説が発展して行く過程で生まれた佳作であると言えましょう。ディケンズなど、英国の小説が好きな人にはお勧めです。
紙の本
呪いならぬ人災
2018/06/24 23:08
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
神秘的に登場する月長石。伯父の遺言で誕生日に石を受け継いだ令嬢の元から盗まれる。以後、関係者が次々と不幸な死を遂げる。しかし、いずれも欲望と誤解が引き起こした人災である。
展開が遅く冗長で、内容の割にページ数を割きすぎている。中編か短編にまとめた方がよかったように思う。敏腕刑事として登場する人物にしても、あまり冴えを感じられない。
どちらかというと期待はずれだった。『白衣の女』には遠く及ばない。