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紙の本
そのままだけど「最初の事件」
2002/02/28 23:13
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投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
一九三〇年に発表された、ポワロと並ぶ二代名探偵と評されるミス・マープルが初登場する本格ミステリ。同年には、エラリー・クイーンよって国名シリーズの第二作目『フランス白粉の謎』が、ディクスン・カーによって『夜歩く』が上梓されている。
共に、巨匠と呼ばれる偉大な作家たちの最初期に書かれた名作であり、本作もこの同様の条件に当てはまる。それにしても、偉大な作家といえども当てはまってしまうことが多い、初期に名作が集中して書かれているという事実には、がっかりさせられてしまう。
ヴァン・ダインの、良質な本格ミステリは半ダースほどしか書けないだろうという、自分自身によって立証してしまった《高見》が、ミステリファンを苦しめ──経験したことがあるでしょう?──ている。デビュー作があんなにも素晴らしいのに、続編はどうして……、と。一般的に、ヴァン・ダインの作品は、半ダース以降は三流、六作目までは一流とされている。確かに、六作目にあたる『ケンネル殺人事件』は、本当に素晴らしい探偵小説なのに、以降の作品ときたら……、個人差はあるとしても、評価が落ちるという点では、きっと万人に共通の理解が得られるだろう。
三〇年代は、クリスティにとっても黄金の時代と呼べる年代であったことは、この一〇年の間に書かれた素晴らしい作品の数々をみれば明らかである。三四年『オリエント急行殺人事件』、三五年『ABC殺人事件』、三九年『そして誰もいなくなった』。天才クリスティは、後年にも素晴らしい作品を残しているが、傑作として評価される作品は、この三〇年代に集中している。
ミス・マープルの暮らすセント・メアリ・ミード村では、十五年来、悲劇的な出来事などは一つも起こっていなかったのだが、不幸なことに牧師館での殺人事件が勃発、しかもよりによって被害者は地元の治安判事だった。
早々に犯人であると自首した青年が現れたため、事件はあっさりと解決するかに思われたのだが、二人目の犯人が現れる至って、小さな村に暮らす人々は猜疑心に苛まれることに。牧師を語り部として、穿鑿好きで、村のことなら知らないことはない、事実を話すことから疎まれているが、そのくせ憎めないという名探偵、ミス・メープルが活躍するシリーズ第一作。
ミス・マープルは、村からほとんど出たことが無いという人物なのだが、人物の観察をライフワークとし、人物をいくつかの種類に分け、人間性を研究しているという名探偵。本作でも、自分自身が村の中を動き回るということはせず、一人称であり事件現場に暮らしているクレメント牧師が職業的な役目を果たしながら、探偵役の代わりに様々な情報を収集していく。
牧師が情報を得るくだりや、最後に探偵であるミス・マープルが事件の解明を行う段など、不自然さがまったくないところが、天才推理小説作家クリスティの凄さなんだろうか。破綻なんてものはなく、バランスが素晴らしく良い。大掛かりなトリックを創造するあたりも、クリスティが天才であるとされる一因だろうが、小説として人間性をたんたんと描くというあたりにも、余人の追求を許さない完成度がある。
意外な犯人、上手いトリック、限定されることで興味を増す舞台、魅力的な住人たち、それに素晴らしい名探偵。本格ミステリの傑作が備えるべき《美徳》を、すべて揃えている名作。
冒頭に掲載されている、セント・メアリ・ミード村の見取り図や、牧師館とミス・マープルの家を拡大した地図は、別のミス・マープルものを読むうえで、きっと欠かせなくなるアイテム。クリスティ自身も、小さな村の見取り図を目にしながら作品を書いていたのかもしれない。
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