紙の本
フェーズ5の本日に ペストを読むこと
2009/05/10 15:45
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新型インフルエンザでフェーズ5が宣言された2009年5月に 20年ぶりに再読した。当然ながら 今回の事態に対して何か勉強になるものがあるかを期待して である。
当然ながら 中世のペストを巡る言説と 現代のインフルエンザを巡る言説は科学的見地から見て重なるものは無い。特に ここ100年の医学の進歩は目覚ましく 病気を病気として分析するだけの道具と知恵を僕らは手に入れたと思う。その意味で本書から 現在を判断するものはない。
一方 本書で展開される ペストを契機としたユダヤ人虐殺や鞭打ち運動の活発化に関しては 心理学的見地から見て 現在にも 重なるものが出てくる可能性は排除出来ないと思う。
勿論 当時のような直載的な反応が出てくるとは思えない。しかし人間というものは 何か大きなストレスに曝された場合に引き起こす 「動物的」な反応においては 中世の時代と余り変わっていない可能性は常にあると自戒すべきだ。
本書を読んだことが 本当に役に立つような事態にはならないとは思うし また ならないことを祈るばかりだ。
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研究発表に使ったよシリーズ。
何故よりによってペスト…友人達に微妙に笑いネタを提供した一冊。
いやおもろいって!!
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ペストという伝染病を軸に、ヨーロッパ社会の変化を活写しており、大変興味深い内容です。また、中国や中央アジアが感染源らしいことが指摘されています。病原菌理論がない時代の病因論は地震による空気の腐敗、視線による殺人、ユダヤ人謀略説など、さまざまな思惟があり、興味深いです。とにかく、歴史を理解する場合に、とくに14世紀や17世紀は、ペストの影響を見のがすことができないということを教えてくれます。
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当時考えられた病因論は興味深かった。それ以外は死者数も発祥地もよく分からないということが分かったくらいで、特筆することはない。少しでも西洋史をかじった人には新鮮味は感じられないと思う。科学思想史?というジャンルに馴染みがないせいもあるが、読みづらかった…。コラムを集めた様な文や構成も流麗とは言えない。
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ペストの流行について、歴史的地理的観点から論じた本。魔女狩りやユダヤ人との関連についても話されている。
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本書で考察されている主に中世ヨーロッパでのペストの流行はさまざまなことを引き起こし、世の中もかえた。この時もユダヤ人の迫害が行われたりした事もあったのが描かれている。日本での関東大震災時の流言蜚語を思い出す。
人間の本質的な考え方や行動は変わらないと思う反面、現代では科学の進歩もあり、中世のペストの大流行時と、今回のコロナに対する人々の臨みかたは違ってもいる。ここに明るい人間未来を見たいと思う。
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(2回目)こんなことがなければ読み返すこともなかっただろう。ネットで高値で売買されているとか、増刷されただとか、そういう情報が流れ込んでくるので、本棚から探し出して読んだ。私が高校生のころに発行されているが、すぐに読んでいるわけではなく、ずいぶん後に、図書館のリサイクル市でもらって来て、しかもしばらく積読したあとで読んだ。当時はどんな想いだったか思い出せない。鞭打ち運動の件だけは、何だか鮮明に覚えている。いや、それは誤解かも知れない。たぶん、映画(ダヴィンチ・コード?)で見て、自分で自分のからだを鞭打つ姿が強烈で印象深かったからかもしれない。さて、パンデミックである。10年ほど前の新型インフルエンザのとき、私の身近に感染者が出た。1対1で補習したりしていた。保健所から何度か電話があり、状況を聞かれた。それでも、私自身はなんともなかった。そういった経験から、今回も大丈夫だろうと、バイアスがはたらいていた。しかし、そうも言っていられないくらい、今回は、恐怖を感じるようになってきた。それは、感染者の体験談などをネットで読むからだろう。10年前とも状況が違うわけだ。本書に登場する中世の町では、生き残ったのが3分の1とも4分の1とも言われる。死体はそのまま積まれていく。ひどいにおいがただよう。そんななか、人々は自分の死をどう受け止めようとしていたのか。好き勝手な振る舞いにおよぶ人、急に信心深くなる人、などいろいろだったようだが、さて、いまもそれはあまり変わらないのではないだろうか。メメント・モリ。死を忘れるな。
(1回目)これまた20年以上前の本ですが、図書館のリサイクル市で見つけて読み始めました。ペストは現在、それほど恐れるべき病気というわけではありません。しかし、完全に絶滅しているわけでもなく、いくつかの地域では時々散発しているのだそうです。(この20年ほどで変化がなければ。)そしてまた大流行が起こるということもありうるのだとか。さて、本書では、過去に起こったペスト大流行が世界の歴史にどんな影響をもたらしたのかが記されています。原因も分からず、解決策も見つからないまま、たくさんの身近な人々が次々に亡くなっていく。そして、神に祈りながら収まるのを待つしかない、そういう場に置かれた人々の思いは想像を絶します。当然のことながら当時の政治や経済にも大きな影響を及ぼしたことでしょう。そして何よりも宗教への影響が大きかったことでしょう。今また、新型インフルエンザの大流行が懸念されています。そのときいったい何が起こるのか。新興宗教に走る人はそうは多くないでしょうが、社会に対する打撃はかなり強いものになるのでしょう。もっとも、そんなときくらい、学校も会社もすべて休みにしたらいいのかもしれません。でも、食物は、電気は、水道は、ゴミは・・・どうなる?! しかし、どうして村上先生は難しい漢字を使いたがるのだろう。それが、当時の先生の流儀だったのだろうか?
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古代化のペストの歴史を概括。第7章「黒死病の残したもの」がこの本のクライマックス。14世紀のペストがヨーロッパ社会に残し、そして現代にも引き継がれているものが多い。ユダヤ人迫害、マリア聖堂(ユダヤ人迫害→贖罪の大きさ→助けをキリストに直接求めるのは大きな罪)、死の恐怖→素朴な信仰への立ち返り→宗教原理主義→宗教改革、中世社会の崩壊(農民の激減→農民の権利向上→農奴から賃金労働者→資本主義の発生の土台)等々。
ストレスを受けた社会が、日常の中で燻っていた社会の中の不満不安をあぶり出し、それを権力者が利用する。歴史上何度も繰り返され、その都度、大きな災いをもたらしている。
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中世のヨーロッパ世界を席巻したペストについて、科学史と精神史の両面から考察している本です。
病因をめぐる医学上の論争のほか、ペストを逃れようとする人びとが信仰に頼ったことや、ユダヤ人がスケープ・ゴートにされたという事実など、病気をめぐる人びとの振る舞いを多様な側面から描き出しています。
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1983年刊行。著者は東京大学助教授。
タイトルどおり、本書は、14世紀の西洋社会を震撼させたペスト禍を、具体的に叙述する。
ところで、なぜ、15世紀に西洋人は欧州外へ出ようと努力したのか。なぜ、大航海時代と言われるようになったのか。
この疑問に関して、例えば、①地域における木材枯渇によるエネルギー不足、②所謂「富」が西洋より東洋・中東に多かったということも想定され、種々議論されているところだ。
が、本書を見ると、その理由の一がペスト禍ではないか、と思わせるほどの大惨事である。少し古いが、歴史的なペスト被害を概括できる点で、一度は目を通しておいても良い書である。
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なんかえらい表現が文学的。物語を読んでる気分でした。だからこそ逆に、どこまで事実でどこから想像なのか分からなかった。カミュの『ペスト』は19世紀の流行のときの物語なんだね。もうちょい前だと思ってたわ。
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書店の感染症特集コーナーで見つけて購入。
14世期のヨーロッパでのペスト大流行の様子を、当時の医学やキリスト教と絡めて論述されている。
世界史の知識ゼロでも読み切ることができた。
「ペスト」という語が本来「悪疫」という意味で用いられていたため、14世期に大流行したペスト(黒死病)よりも前の「ペスト」の記録は他の疫病を指している可能性が否定できないということは興味深い。
中世ヨーロッパでのペスト大流行によって、社会制度の変革が起きたりしているが、現在世界的に流行している新型コロナウイルスが沈静化したのち、世界はどうなっているのだろうか…。
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「ペスト大流行」村上陽一郎著、岩波新書、1983.03.22
196p ¥520 C0222 (2020.04.12読了)(1999.11.26購入)(1990.05.25/13刷)
副題「ヨーロッパ中世の崩壊」
【目次】
序 ペストの顔
一 古代世界とペスト
二 ヨーロッパ世界の形成とペスト
三 黒死病来る
四 恐怖のヨーロッパ
五 さまざまな病因論
六 犠牲者の数
七 黒死病の残したもの
八 黒死病以後
あとがき
主な参考文献
索引
☆関連図書(既読)
「デカメロン物語」ボッカチオ著、現代教養文庫、1969.07.30
「死の舞踏」木間瀬精三著、中公新書、1974.05.25
「新しい科学史の見方」村上陽一郎著、日本放送出版協会、1997.01.01
「科学史はパラダイム変換するか」村上陽一郎著、三田出版会、1990.11.25
「安全と安心の科学」村上陽一郎著、集英社新書、2005.01.19
(表紙カバーより)
十四世紀中葉、黒死病とよばれたペストの大流行によって、ヨーロッパでは三千万近くの人びとが死に、中世封建社会は根底からゆり動かされることになった。記録に残された古代いらいのペスト禍をたどり、ペスト流行のおそるべき実態、人心の動揺とそれが生み出すパニック、また病因をめぐる神学上・医学上の論争を克明に描く。
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新型コロナフェア(?)で陳列されていたものを購入。一緒にカミュ『ペスト』も買ったのでこれから読むつもり。
都市部で緊急事態宣言が出され、風評被害や差別的行動、海外では殺人事件まで起きている様相を呈しており、歴史に刻まれた迫害や虐殺が起きてしまうのではないか?との不安も、大袈裟なものではないだろう。数週間前までは不要不急どころかオリンピックスすら予定通り開催しようとしていたのだから。その数週間後には緊急事態宣言、その数週間後には……って感じで。
この本は、封建社会に代表されるヨーロッパ中世が、ペストによりその秩序が崩壊してゆく(といっても、ペストは崩壊に向かう中世の背中を押したに過ぎないとも考えられるようだ)過程を描いている。
当時の医学がどう立ち向かったか、当時の民衆はどう受け止めたか、当時の社会制度がどのようなものであり、どのような歪みを抱え、どのように破壊されたか。そんなことが書かれている。
現代と結び付けて考えるならば、やはり社会不安が齎した二次的な悲劇が印象的だった。ペストで死にゆく者がいるのは言うまでもないが、毒をバラ撒いているのだという風評により殺されたユダヤ人が沢山いたのだとか。タチの悪いことに、良かれと思ってやっているような輩までいる始末だ。20世紀の日本でも、災害があった際に似たようなことが起きている。
そして、それは現代にいても同様かも知れない。〇〇で感染者が出たというデマで客が激減した店だとか、近くに感染者が出たという理由で心無い言葉を投げかけられる人だとか。そして、これから感染者が増えたり経済への打撃で失業者が増えたりと社会不安が増大していけば、似たような事件や、これを凌駕する悲劇が起きても何ら不思議ではない。
また、特に面白いなと思ったのが以下の一文。
「……多くの史家の指摘するとおり、黒死病そのものは、時代の担っていた趨勢のなかから、次代へ繫がるものをアンダーラインした上でそれを加速させ、その時代に取り残されるものに引導を渡すという働きをしたにせよ、次代を造り出す何ものかを積極的に生み出したわけではなかった。」(p.176)
大火で街が一度焼き払われることで図らずも街が一新されるように、大きな災害は世の中をリニューアルするきっかけと捉えることも可能だろう。コロナにより起きた通勤ラッシュの緩和やテレワークの推進は、ひょっとすると危難の過ぎ去った後の社会を良くするカンフル剤にもなりうる。
ってことをこの本を読むまでは考えていたが、そんなことないのかも。
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科学史家・村上陽一郎による、中世ペストの考察。
新書としてコンパクトにまとまっており、読みどころが多い。
序章で19世紀のペスト菌発見を含めた、ペストという疾患の総括を示し、以下、古代のペスト流行から、いわば黒死病前夜のヨーロッパ形成とペスト菌の侵出、猖獗を極めたその流行と人々の反応、黒死病以後の世界を説く。
ペスト菌は古来、幾度も流行を繰り返していた。11世紀には十字軍の遠征に合わせてペスト菌は欧州に流れ込んだ。主要宿主であるクマネズミが欧州にやってきたのもこの際と考えられるようだ。
交通が発達し、人の往来が多くなると、それにつれて感染症も広まりやすくなる。中世ヨーロッパ形成は、その素地を作っていった時代でもあった。
本書で主に扱う14世紀の大流行の前には、異常気象やサバクトビバッタの大発生など天変地異が多く起こる。ある種、不吉で予言的な出来事にも見えるが、これらはむしろ、社会に打撃を与え、人々がその後、感染症の影響を受けやすい状態にしたと見る方が妥当だろう。
このあたりの話も興味深いのだが、さまざまな病因論を記す項が非常におもしろい。
当時はもちろん、目に見えぬ小さな病原体がこの死病の原因であることは判明していない。占星術に基づく説や大気の腐敗説、地震や火山に原因を求めるものとさまざまである。患者に接した人が発病することから、どうやら「感染」するらしいとはわかっても、接触や飛沫ではなく、眼差しのせいであるとする説もあった。患者とは目を合わせてはならないというわけである。
原因がわからない不安の中から生まれてくるのは以前から差別してきた相手に対する「責任転嫁」である。この際、ユダヤ人に対する大規模な迫害が起こったことは忘れてはならぬ歴史だろう。
中世のペスト大流行は社会を大きく揺るがしたことは間違いないが、ペストが社会を変化させたというのはいささか言い過ぎであるようだ。ポスト黒死病の時代は、荘園制度の変化や賃金労働者の出現、学問の衰退や俄か成金の台頭など、多くの変化を生じた。けれども、それらは時代がすでに招きつつあるものだった。
著者は言う。
たしかに黒死病は、流行病としては人類の歴史上、おそらく最悪のものの一つであった。しかし、その異常事態の上に映し出されたものは、良かれ悪しかれその時代そのものであって、その時代の要素が、いささか拡大されて見えるにとどまる
と。
黒死病のもたらした大きな思想の1つに「メメント・モリ」があげられるだろう。
大ナタを振るう死神は必ず現れる。死を思いつつ、よき生を生きるとは、いったいどういうことだろうか。
ペストに限らず、感染症は何度も訪れる。たとえ原因がわかっていても、感染症との闘いは厄介だ。
大きな災厄の中で、私たちは良識を失わずに手を携えて戦えるのか。
そのことを中世ペストの歴史は重く問うているようでもある。