紙の本
30年来のお気に入りです!
2004/07/06 19:57
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kokusuda - この投稿者のレビュー一覧を見る
万人向けの作品では無く、少し読者を限定する作品ですが…。
イギリスの評論家、作家、思想家、哲学者?である
ウィルソン氏の作品です。
映画関係者にもコリン・ウィルソン監督がいますが、
全くの別人なので注意するように…。
本人はSF寓話と称していますが、
本作をSF小説と言って良いのかには賛否両論があります。
個人的には思想SFと言えると思うのですが…。
死の問題にとり憑かれた一人の青年が永生を夢みて
不老長寿の研究をはじめる。
古来、天才的な思想家に長寿を全うした人が多いのは何故か。
この疑問はやがて大脳生理学の研究へと発展し、
青年は前頭前部葉の秘密へと逢着する。
かくして彼は意識をほとんど無限に拡大し、
過去をも透視できるようになる。
パラドックスを伴わない真の“時間旅行”が、
ここに初めて実現する。
だが、人類の起源にまつわる秘密を探る彼の前に意外な妨害が現れ、
命さえ危険にさらされる。
「アウトサイダー」の著者コリン・ウィルソンが放つ
壮大な人間進化のヴィジョン。
(11版巻頭解説より)
この作品では時間旅行、超能力、暗黒の力などが扱われています。
ホラー風な味付けで少し好みではないのですが、
同種の作品とは違い未来への希望や思想が感じ取れます。
作中では意識を拡大するのに脳内に合金を簡単な外科手術で
埋め込むという方法を取っています。
そのために神経電流が増幅され脳が活性化するというのです。
この一種の超人思想は決して新しいものではありません。
しかし、拡大された意識で何ができるのか?
何をすべきなのか?
という事の考察が真の主題のように思います。
似たような作風ですが伝奇やホラーとは少し違います。
主人公の名前も出てきませんし、とんでもない発想や新発見も
ありません。
ストーリーは当然フィクションですが、登場する資料は実在です。
よく小説などに登場する架空の書物とか宗教とかは出てきません。
歴史などで語られなかった事実を想像力で補って
物語を構成する点では歴史小説に通じるでしょうか。
その点で考えると一種独特な真実味のある作品です。
この手の思想、思考方法に付いていけるならば、
この作品はずっと手元に置きたくなるでしょう。
(私も30年来、手元にあります)
哲学的な思考(思考による冒険)が理解できないならば、
狂人の戯言、退屈な言葉の羅列にしか感じられないかもしれません。
そんな意味では非常に読者を選ぶ作品です。
作家の笠井潔氏などは創元社のベスト1に選ぶほどですが、
世間での評価はあまり高くありません。
読者によって評価が別れると思いますが、
私には読まないままで人生を終えなくて良かった、と思う作品です。
紙の本
博識な著者ならではの奇抜なSF小説
2002/01/23 15:58
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喫読家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「理屈ぬきのおもしろさ」という言い方があるが、この小説のおもしろさは、「理屈込みのおもしろさ」という点にある。本書はフィクションというだけではなく、おそらくコリン・ウィルソンの評論とも接点を持った作品でもある。したがって、この小説について説明する場合、主題をはっきりさせておいた方が話が早いだろう。
『賢者の石』という小説は、次の問いに対する解答を描き出すために考案された「コリン・ウィルソンの実験装置」ともいうべき物語なのだ。
「もし、私たちの認識能力を驚異的に発達させることができたらどうなるだろうか?」
大脳生理学の研究の結果、人間の認識能力を飛躍的に高める方法を発見した主人公は、みずからの脳にその手術をこころみ成功する。高い思考能力と疲れを知らぬ探求心を手に入れた彼は、知的好奇心のおもむくまま、文学、オカルト、古代史など、さまざまな領域の探求に着手する。しかし、古代史の研究に深く入り込むうちに、彼は、人類の有史以前、地球上に君臨し人類を支配していた「ある存在」について知ることになる。
この作品は、SF、ホラー、評論、科学解説書を1つにまとめたような小説である。一方、物語であつかわれている冒険は、主人公たちの行動よりも、むしろ知的領域での活躍に重点が置かれている。天才肌の主人公の思考を描くため、ひじょうに多方面にわたる話題をとりあげているが、歯切れの良い文章は分かりやすく、読んでいて気持ちが良い。話の中には実在の人物が数多くあげられ、事実と虚構がたくみに組みあわされているものの、かえって、そういった細部がこの作品のコクとなり、話の内容をいっそう興味深いものに仕立てあげている。
1969年というのは、この小説が発表された年にあたるが、この数字はこの物語にとって事実と虚構をへだてる境界線の役割もはたしている。
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コリン・ウイルソン(1931年生まれ)イギリスの作家。
「アウトサイダー」でデビュー。多作家である。
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手もとにあるのは、創元推理文庫の1971年版で、翻訳者は、中村保男氏。
創元推理文庫からは、1982年に再刊行されていて、リンクの記事は、そちらの書誌情報につながるはず。82年版の改版の有無は未確認。
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実在の人物が、たとえばジュリアン・ハクスリーとしゃべったとか、そんな風に出てくるから、どこから実在の人で、どこからフィクションなのか不安になる。小説なんだから、すべてフィクションと考えておけば安全なんだけど。
(2010.02.28)
2年以上前に50ページくらいまで読んでいたのだけど、最初から読み直し中。冒頭の死の恐怖の描写について、これ以上に共感できたものはない。
http://booklog.jp/quote/245338
このせいで僕もまた同じく、ふつうに働いて生きていける自信がない。
http://booklog.jp/quote/245340
ところで、すごくどうでもいいことなんだけど、中世には次が今より遠くにあったので重力が今より強く、そのために人間の身長は低かったというトンデモ理論が出てきて、それは実験しようがないと書いてあるのだけど(p.64)、実験できると思う。微小重力下でのマウスの実験はよく聞くし、大腸菌は短い期間で人間の歴史に匹敵する世代数を観察することができるので、ちょっと重力を強くしてみて、大腸菌がどのように進化するか見ていけばいいと思う。もちろん、たった数百年前の月の軌道が今と違ってるわけはないので(それをどう実証していいかのちゃんとした案はわからないけど、例えば金環日食の記録を見るとか?)、ゆえにナンセンスだと言うのならいいんだけど。
(2012.06.16)
訳は海外文学によくある感じだったと思うけど、たまに気になるところが。p.192 雑誌のNatureやScientific Americanが「自然」、「科学アメリカ」と訳されている(NatureとScientific Americanを同列に並べるのもよく分からないけど)。ルビがなかったら何のことかさっぱりだ。 p.226 の「行動」(アクションとルビが振ってある)は場面のことでは?
中盤で、急にシェイクスピア=フランシス・ベーコン説の謎解きみたいなところが出てきて、ダ・ヴィンチ・コードみたいだと思った。かなり唐突な脱線でなんでこの話題が入ってきたのかよく分からなかった。そのくせ、主人公のシェイクスピアへの評価は低いのでますますよくわからない。
総じての感想は、面白くなかった。訳者の解説読むと「これはめっちゃすごいし面白いよ」と書いてあるんだけど、「このオカルト小説のどこが?」と共感出来なかった。なんかもっと書こうと思ってたけど読み終えて一ヶ月以上経過して本がいま手元にないのでこのくらいしか書けない。そもそもこの本を読んだのは大学以降僕の読書のひとつの指針となっている予備校教師がおすすめリストに入っていたからなのだが、その中ではじめてのはずれかも知れぬ。もう予備校を出て4年以上経つし、このリストから卒業してもいいかもなあ。
(2012.09.05)
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コリン・ウィルソンの代表作だが、はずかしながら初読。SF小説というよりは、人類の起源からマヤ文明とムー大陸、巨人伝説、時間旅行、ポルターガイストや念写、シェークスピア=ベーコン説まで詰め込んだ、やりたい放題の伝奇小説といった趣きだ。
登場する文献はすべて実在するというのだから、作者の博覧強記ぶりに恐れいる。またその一方で、これだけ多岐に渡るモチーフを綺麗に一編の小説にまとめ上げる剛腕も素晴らしい。
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前半は引き込まれたけれど、後半はこんがらがって退屈。
ブルックナーの交響曲を聴いて至福を味わっているくだりは
興味深かったし、意識が拡大して子持ちの女性と精神交流するところも
面白かったけれど、全体としてはグッチャグチャの読後感。
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死の問題にとりつかれた一人の青年が永生を夢みて不老長寿の研究を始める。研究は前頭前部葉の秘密に逢着し、彼は意識をほとんど無限に拡大し、過去を透視できるようになる。パラドックスを伴わない真の時間旅行がここに初めて実現する。
古い作品だけれどもその古さを感じさせない内容だった。読んでいて楽しかったがちょっと内容を詰め込みすぎた感がある。所々に教養を必要とする内容があって、理解が出来なかった。。
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とても面白かった!前半はちょっとダラダラしたかな、と思ったけれど、後半からの加速感がすごい。コリン・ウィルソンの小説ははじめてだったけれど、さすがの内容。
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不老不死の研究を始めた青年が人間の脳に隠された能力を目覚めさせる手術に到達。パラドックスのない時間旅行が実現するが、その先に見えたのは地球の地下に眠る巨大な存在だった!
科学、文学、芸術をベースにリアルな理論を構築する前半がとても面白かった。後半ではマヤ文明、ムー大陸の滅亡、さらにはラヴクラフトの「ネクロノミコン」まで持ち出してオカルト色が強くなり、物語としてはかなり面白かった。
人類の目指すべき未来を伝える思想的なSF小説でした。
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(1981.12.06読了)(1973.07.07購入)
内容紹介
死の問題にとりつかれた一人の青年が永生を夢みて不老長寿の研究を始める。研究は前頭前部葉の秘密に逢着し、彼は意識をほとんど無限に拡大し、過去を透視できるようになる。パラドックスを伴わない真の時間旅行がここに初めて実現する。だが意外な妨害が……。『アウトサイダー』の著者が描く、壮大な人間進化のヴィジョン。
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ラヴクラフト批判に対するオーガスト・ダーレスの言
――「だったら自分で書いてみたら」を受けてコリン・ウィルソンが執筆した、
クトゥルー神話に則った空想科学怪奇小説。
原題は The Philosopher's Stone で、
敢えて直訳風な邦題にしたが、正確には化金石を指す――と、
訳者あとがきにあり。
化金石とは、
錬金術に用いられる、卑金属を金に変ずると信じられた想像上の物質。
Ⅰ.絶対の探求
学究の徒ハワード・レスターと地元の名士アラステア・ライエル卿の交遊。
ライエル卿の死後、ハワードは時の流れと長命の関係について思索。
心理学者ヘンリー・リトルウェイの屋敷へ招かれたハワードは、
生理学者が発見した合金を脳に埋め込む手術を受ける。
Ⅱ.夜の涯への旅
ハワードは合金が前頭葉にもたらす刺激をコントロールし、
「時間透視」の術を体得。
リトルウェイ邸に保管されていた玄武岩の小立像から
邪悪な気配を読み取ったハワードは、
背後に横たわる「大いなる秘密」の存在を察知し、超古代史の解読に挑む……。
縄張りに引き籠もって、
ただひたすら自分にとってオモロイことだけを追究しようとするオタク青年の話。
外科手術と精神の鍛錬によって、時空間を超越した「透視」能力を獲得し、
見てはいけないものを見てしまうわけだが、
上手い具合にラヴクラフトのパスティーシュとして成立している、と言えるかも。
読んでいて一番驚いたのは、
そんな朴念仁な主人公が意外にちゃっかり恋愛まで成就させてしまうことだったが、
個人的に最も強烈な笑いのツボとなったのは、序盤、
ツングースカ大爆発の現場を訪れ、
どこか別の銀河系から飛来した宇宙船が爆発したのであろう〔p.26〕
などと考えるくだり。
vivaコズミックホラー(笑)!
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場所や物に残っている記憶を「念視」する事によってあたかも時間旅行をしているように感じるという設定が秀逸。
過去に行ったように感じても当人は「見ているだけ」なので歴史に干渉しようがないしタイムパラドックスも起こらない。
これで人類起源の謎に迫れる…と思いきや、何だかよくわからない妨害勢力が前に立ちはだかることとなる。
普通だったらここで出てくるのはタイムパトロールのような歴史修正機関なのだがこの本では違う。
なお「クトゥルー神話」がベースにあることを知っているのと知っていないのとでは作品に対する理解度が違ってくる。
知らなければ知らないで特に困るわけでもないが。
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SFだと思って読んだんです。
けど序文があって、同じ文体で本文に続いているので、しばらく小説がはじまっているのに気が付かなかった。
いつSFになるのかな~、って思って。
だって主人公、絶対作者だって。
小説だったって気が付いてからも、ちょいちょい作者と主人公がだぶる。
とにかく本を読んで思索にふける。本を読んで思索にふける。本を読んで思索にふける。
折々に出てくる考察は、ほぼ作者の声にしか聞こえない。
「小僧の神さま」における志賀直哉の神さまっぷりと同じくらい、天の声としての作者が神なので、今後コリン・ウィルソンのことを「賢者の神さま」と呼んでもいいくらい。
とにかく文体がSFじゃあないんです。
血沸かないし肉踊りません。
翻訳も古いです。
アズテック人→アステカ人
クソロー→クトゥルー など
けれども知識がの広がりを感じさせること、思索の深さを感じさせること、それらがなんと喜びに充ちたことであるか。
歴史や地理、文学、音楽、美術、数学、物理学、生物、天文学、博覧強記の作者だから書ける、あらゆる学問への志向。
わくわくします。
しかしどうでしょう。
全てが脳の働き=論理的思考になるのなら、感情すらも脳の電気的反応に過ぎないのなら、真実とか善きこととか美というものは、いったい何?
脳の反応の結果?計算の結果?
反応が計算できるものならば、機械にそれをやらせることもいつかは可能なわけで、では人間が人間である意味は?
なんてことを考えながら読んでいました。
人間が神様や絶対君主を求めるのは、基本的に精神的奴隷体質だからという考え方に思わず納得。
誰かに指図してほしい。従いたいというのは、分かりますね。
ドレスローザの人たちみたいに。
テーマは面白かったけど、今の訳なら無理に読まなくてもいいかも。
少し冗漫な気がしました。
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人間の能力の拡大。人類の起源とこの先の進化。パラドックスのない時間旅行。
SFとしてのテーマをふんだんに盛り込んだ作品でもあり、「至高体験」の学術的テーマも含んでいる。
学生時代に何度も読んだことを思い出す。ことに能力を伸ばして行く前半は、「体験」についての素晴らしい考えに満ちている。思考すること、美と善を受け入れること。「ヴァンパイア・クロニクル」の描写に惹かれたことに通じる根っ子を思い出した。