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主な舞台はペル・ステーションと惑星ペルである。人間にとって宇宙ステーションに住むよりも惑星の暮らす方が良さそうに見えるが、大気は同じではなく、惑星は下界と呼ばれている。
追い詰められたメイジアン率いる地球側の艦隊はペル・ステーションを占領して基地とする。ペルの人々にとっては地球側の艦隊も侵略者である。「自分たちをこんな羽目に追い込んだメイジアンのほうが、同盟よりも憎かった」(下巻139頁)。
軍人の占領下にいるよりも、あてもなく逃亡した方がいい。「全員があるひとつの狂気にとりつかれ、この逃亡に同意したかのように、不平一つもらさない。メイジアンの統治の味を、だれもが一度、身にしみて味わっているのだ」(下巻171頁)。ロシア連邦軍に占領されたウクライナ人も同じ感覚だろう。
宇宙ステーションは技術者なしでは成り立たない。軍人は技術者に銃を突き付けて奴隷労働させる。「司令ボードの前には、いましがた勤務についたばかりの技術者たちが坐っているが、兵隊はかたときも彼らから目を離そうとしない。非番になった他の技術者たちも、やはり監視のもとで夜を過ごすことになる」(下巻194頁)。ウクライナのサボリージャ原発がロシア連邦軍に占領され、技術者が無理やり働かされている状態と重なる。
ペルを占領した軍人は腐敗していた。民間のアパートを占領し、麻薬を使用した。民間人の男女4人を閉じ込め、裸にして暴行を加えた(下巻239頁)。これもウクライナを占領したロシア連邦軍兵士と重なる。
一方で同盟側も解放者ではない。「彼らは強制徴用によってむりやり人員を徴募しただけでなく、船をまるごと徴発し、名前まで悪用する気だ……とりわけ名前と信頼、その人びとの人格そのものを踏みにじろうとしている」(下巻179頁)。中立の商船団を脅して中立の立場のまま動かして利益を得ようとする。卑怯な手口である。