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梶山 李之の【ニッポン一匹狼】を読んだ。
梶山 李之を読むのは初めてでなんの予備知識もなく、古本屋でいつもの如く「タイトル買い」をしたも
のである。
読んでみると表題作の【ニッポン一匹狼】は、なんというか、まぁ、かなりエグイ。エログロな内容。
読んでいる途中に「なんか中年のサラリーマンが読みそうな夕刊紙とかに連載されてそうな小説だな」と
思ったら案の定、初出は「夕刊ニッポン」という新聞(?)だった。しかも昭和48年〜49年にかけて
の連載。僕、生まれてません。
面白いのは書き手が語り手である手法。ストーリーの途中でいきなり『 ―読者よ。嘘だと思うなら〜』
と語りかけてくるのだ。こんな小説初めてみたので思わず笑ってしまったのだ。
内容は割愛。というか自主規制。R18とでも言っておきましょうか。
この本には他に【俺は歩いてゆく】と【海師ボルギュウ】の2作品が収録されているのだが、こちらはな
かなか良かった。
ともに日本ではうらぶれていた若者が海外に飛び出して成り上がるといった作品。
けして華麗な成り上がりではないけれど、泥臭くても突き進めば成功を収められるのだというまさに昭和
の「日本男児」的な思想がよかった。
この本を読み終えてしばらく経ったある日(正確には2007年11月11日)北海道新聞の朝刊に
梶山 李之の記事が載っていたのを偶然目にした。
今、梶山 李之が「復活」しているという内容に思わず目が留まった。
『梶山李之が復活している。「黒の試走車」に続き、「族譜・李朝残影」が岩波現代文庫で復刊された。
死後三十年以上たった往事の流行作家の作品が蘇ることはめったにない。まして「トップ屋」だの「性豪
作家」などとありがたくない称号をもらった梶山である。これは奇跡ともいってよい現象ではあるまい
か。』
といった書き出しだ。復活しているのは梶山氏が残したおびただしい娯楽作の他に埋もれたシリアスな朝
鮮を舞台とした小説群がありそのうちの三編だという。現代社会のキーワードともいえる「朝鮮」が世間
の注目を集めているのだろう。
ソウル育ちの日本人作家である梶山氏には、生粋の日本人には見えない、手の届かない部分まで感ずると
ころが多々あったのだろう。
この記事を読んでから改めて【ニッポン一匹狼】に収められた3編をさっと読み返してみると、なるほど
世界を見据えるグローバルな視線というものを感じないでもない。
こうして後世に名を残していける作家という職業はやはり素晴らしいものだなとつくづく感じたのであっ
た。