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トマス・ペインの評伝小説。学生時代に読んだ、開高健のエッセイにこの本が紹介されていて読みたいと思っていたが忘れていた。図書館の検索で見つけたので読む。
アメリカ独立戦争の最中に書かれたパンフレットの作者の生涯の小説。馴染みがない人物だ。原書は1943年に書かれたものでちょっと記述が古いがいろいろ工夫がある。
破滅型人物の話で波乱万丈の生き様だった。悲惨な末路が待っている。英雄譚でもない。文章の才能があったが行動の才能は乏しい。アルコールに溺れたり老いに気弱になったりする。実に人間らしい書き方をしている。アメリカ独立運動も今からみると当然だが同時代のものからみると無謀だった。そういう心情や事情もきちんと書いてある。
フランス革命の時には議員になったりする。ただしアメリカ独立を成し遂げた生きるシンボルでしかなくフランス語もろくに喋れないままだった。内紛に振り回される日々。
老後を米国で過ごそうとするのだが、独立でともに戦った連中は冷淡だし、出版した彼なりの信仰の本が、既存宗教団体をひどく怒らせてしまっていた。
老人の平穏な生活はままならない。彼の臨終には、最後に改心させようと無数の説教士がベッドの脇で喚き立てるばかりだった。教会からは墓への埋葬を断られる。彼の支持者が英国に埋葬しようと遺骨を掘り起こすが骨はそのまま行方不明のままだと。
ああ、なんと不器用な人間だよ。だが書いたことを撤回しなかった。撤回するようなことを書かなかったということか。書くということにはそこまで覚悟が必要なものなのかと考えた。
この本は復刊してほしいわ。