紙の本
明治時代の職人尽くし、意外に面白い
2023/07/17 20:13
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投稿者:Ottoさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
社会主義運動家の窮状告発本として読むとつまらないが、明治時代の職レポとしては興味深い。
明治31年ごろの日本の世相を当時の統計資料や実地に調査している。
江戸の封建制、身分制が廃止され、急激に近代化して社会に歪が出てくる頃、様々な職業の生活ぶりが紹介される。
第1編「東京貧民の状態」で人力車夫、土方、屑拾い、下駄の歯入れくらいはいいとして、かつぽれ、ちょぼくれ、かどつけ、なんじゃそれ?そんな貧民が何町にはどれくらい住んでいる。今ではちょっと書けない内容だ。当時の主力産業・紡績業で女工の給金、年季、寄宿舎での暮らしぶりが紹介される。
著者は毎日新聞の記者だった人で、社会、労働問題に取り組んだ人のようだ。
最後は、日本の社会運動について、まだロシア革命以前なので、イギリスの工場労働者に比べてまだ劣悪ではないとか、したがって労働運動もこれからだと主張する。
貧困の再生産(貧民向けの学校の必要性)などすでに現代の問題の萌芽も書かれている。
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いざなぎ景気越えを「かげろう景気」と名付けられた一方、格差社会が叫ばれて長いが、同じような時代がおよそ130年ほど前の日本にも存在した。当時の大蔵卿であった松方正義は、緊縮財政により一時的なデフレ不況を生みだす一方、積極的な経済構造改革に着手し、産業育成政策を推し進めたことにより、当時の先進国のステータスであった金本位制の基礎を整えることに成功した。
本書は経済発展の一方で貧困にあえぐ多くの人々にスポットライトを当てた良書である。そこには現在の「格差社会」とは比べ物にならないほどの劣悪な労働環境、低賃金、売春などが赤裸々に調べ上げられている。
そして現在。派遣社員、フリーター、ニート、そしてワーキングプア。現在の好景気を支えている一面には彼らのような低賃金労働者が存在することを忘れてはならない。その一方で、多くの企業はこれまで以上に1円、1銭単位のコスト競争力が求められている。
もはや杓子定規に賃金引き上げでは片づけられないところまで来ているのである。
キリストの世界に地獄があるように、資本主義の発達においては富が集中するとともに、一方では貧困を生みだすことは必然的なことで避けられないことであろうと考える。「格差是正」は必要であるが、本当に必要なことは「『そのためには何を以ていかなる施策で富の再分配を図るか』というグランドデザインを描くことにあるのではないか」これは、たんに与党・野党の泥仕合をしている場合ではないことを物語っているような気がする。
本書は現代社会が近代社会から学ぶことが多い良質の書物であると感じました。
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ずいぶん昔から何度か読んでおります。
潜入取材モノの元祖といっていいでしょう。
さまざまな最下層な人々に接し、取材をしてます。
明治のスラムの様子がよくわかります。
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明治30年前後の記録です。
私事ですが、戦後の政治や思想の歴史を辿ってみました。けれど、その根源がわからなかった。結局明治維新に至り、それでもわからなくてさらに遡っています。
明治30年とは、現代から見ればはるか昔なのでしょうが、日本人の精神やら価値観やらを辿るには、とっても身近な時代だと思います。得ることがとても多いです、喜んでいいのか悪いのか。
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日清戦争前後、日本の産業革命時期の労働・貧困問題につき、記者の目から事実・数値を克明に描き出そうとしたもの。特に、年少者の使役が顕著な事実として描写されている。現代の労基法・義務教育の基準では想像しがたいが、経済面のみならず精神面における日本の貧困の度合いが透けて見える。結局、この状況が一応解消したのは高度成長期。誰もが仕事を持ち、その所得により一定の生活を保ちうる状況が不可欠なのだろう。将来、誰もが仕事を持ちうる状況が日本で続くかは、製造業従事者の減少が不可避である今、懐疑的だが、その処方箋は如何?
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東京貧民の状態
職人社会
手工業の現状
機械工場の労働者
小作人生活事情
附録 日本の社会運動
著者:横山源之助(1870-1915、魚津市、ジャーナリスト)
序文:島田三郎(1852-1923、東京、政治家)、日野資秀(1863-1903、京都、政治家)
解説:立花雄一(1930-、富山県、日本史)
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明治時代のジャーナリストである著者による、近代化の道を歩みはじめた日本に生まれつつある労働問題・貧困問題の実態の報告です。
明治時代に入り、日本は欧米にならって近代化へと突き進みましたが、それは西洋諸国と同様に深刻な労働問題や貧困問題を生むことになりました。著者は、都市の貧困者や職工、農村における小作人たちの生活に密着して取材をおこない、多くのデータを示しながらその問題を世の中に伝えようとしています。
貧困はいつの時代にもありましたが、本書が論じているようなかたちで「労働問題」や「貧困問題」が語られるようになったのは、「近代」という時代に特有のことです。そうした「近代」が日本に広く定着していったことを示す歴史的資料として、本書は興味深い内容をもっているように感じました。