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架空の地アランを舞台に、南方の民族によって城(トーナー郭)を奪われた主人公とその主人である若君が、協力者達と共に城を取り戻しながらも、それぞれの生きる道を探す…という物語です。ファンタジーではありますがあくまで占いのたぐいであって、魔法や架空の生き物は存在せず、ひたすら厳しい自然や人間模様が描かれるのみです。
本書の見どころは、主人公・ライクと彼の仕えるトーナー郭の若君・アーレルとの関係、そして彼らに協力するノーレスとソーレンという名の女性達との関係性にあります。アーレルは長い金髪に青い瞳の青年ですが、2人女性の一人、ソーレンも同じく金髪に青い瞳です。当初ノーレスとソーレンはギーヤという無性の人間になりきって彼ら主従の前に登場してくるのですが、彼女達の性を超えて克つ同時に内在する二つの性が、後になってライクの心にある本当の自分の思いに気づくきっかけとなっていきます。
ライクとアーレルの関係は肉体関係がないだけでほぼBLです。続編の「アランの舞人」では男女問わず同性愛カプが出てきますので、この作品はブロマンスといえるかもしれません。本書のラストについては外国の方も賛否両論あるみたいですが、私は爽やかな終わり方だと思います。アランの地で芽生え始めた舞という文化のように、ライクとアーレルの間にあるものも、少しづつ変化しはじめていくような希望が見えるからです。
本書はすでに絶版となっており、中古でしか手に入りません。英語版のペーパーバッグはKindleでも取り扱いがあります。冬の狼(原題:Watchtower)原文は作者が意図的に文節を短くしていることもあり、その日本語訳も短く独特ですが、さらに独特なのはカタカナを使わず漢字を多用されているため読みづらく、最初は慣れるのに苦労しました。(麺麭=ぱん、乾酪=ちいずとか)
派手さはないけども大好きな作品です。