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本書は当時高野山大学の学長をつとめておられた松長氏による空海伝であります。本書もそうですが、以前拝読した「密教」岩波新書、とともに大変読みやすく、しかし大事なことを捨象せずにわかりやすく解説されている本だと思いました。何よりも興味深かったのが、松長氏ご自身が空海をどう解釈されているか、という意見が各所にちりばめられていることです。特に最終章において「なぜいま密教・空海なのか」というテーマで、密教が果たす役割として、1.宇宙的視野を持っていること(人間中心世界ではなく、宇宙のなかの他の生物と連帯している人間、2.価値観の多様化(とくに色々な考え方の包摂性)、3.理論と実践のバランス、を挙げられていましたが、2016年現在でも大変共感する点でした。現在、AIが人間の知能を超える時代が来ていますが、人間とは何か、なんのために科学進歩しなければならないのか、という問いに対して西洋発の哲学や科学技術文明は答えを持っていません(というかいつまでも進歩し続けろ、それが人類の幸福だと信じていますが、それは地球の破壊を招きます)。密教の役割はますますましていると本書を読んで実感しました。