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タイトルの通りのアンソロジーなのだが、いわゆるファンタジーめいた要素の作品には乏しい。幻想小説をキーワードに米文学の歴史を辿る趣向が凝らされていて、それだけに勉強にもなったし参考にもなったし、率直に言えば退屈に感じた作品も少なからずあった。感心したのは、ワシントン・アーヴィンク「アメリカ大陸の発見」とカポーティ「ミリアム」の2編。前者は今なお色あせない鋭敏な批評性と諧謔性に満ちていて、執筆年が1809年と知れば驚くばかりである。後者の筆運びの巧みさは、やはり若きカポーティの才能がただならぬものであったことを再認識させられた。一方で、バースやバーセルミの実験性は一頃は非常に影響力もあったんだろうけれど、いま読めば、歴史的使命を終えたんじゃないかなと言うような印象しか持てなかった。ボウルズもこれ一編だけ読んで優れた作家だという印象を持てたかと言えば心許ない。
それにしてもいちばん面白かったのは実は後書きだった。「アメリカ文化そのものの影響の巨大さがなければ、スタインベックもヘミングウェイも一顧だにされなかっただろう」というブニュエルの悪罵は傑作だと思ったし(この見解にはかなり同意します)、「北米文学の特質とは観察よりも想像であり、リアリズムよりも幻想である。フォークナーの残酷さも幻覚的な地獄であって俗世的な残酷さではない」と断じたボルヘスの批評もつくづく面白い。ものすごい自信だ。そして確かに、「あらまほしきなにか」を追い求める姿勢というのは、北米の文学の至るところに閃く特質であり美質であり怪異な部分でもあるよなあなと再認識させられたのである。