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稀代の愛書家である著者が、歴史や経済、文化などのさまざまなジャンルにおける文庫本を紹介しています。
1985年に刊行されているので、紹介されている本が古いことはしかたがないのですが、もうひとつ注意しておくべきなのは、本書はそれぞれの学問分野の入門書を提示することが目的ではないということです。かつて文庫本は、古典や名著が中心でしたが、80年代からそれらの比重が下がり、実質的な意味での新刊書が主流になってきたと著者は語っています。それにともなって、現代社会を生きていくのに求められる情報を広く提供するような性格のものと、エンターテインメントの二つの方向に分かれたといい、本書では前者にあたるものがとりあげられています。
たとえば歴史の本に梅原猛の『隠された十字架』や吉田武彦の『「邪馬台国」はなかった』が、日本人論では山本七平のさまざまな本が、あげられています。おそらくこれらの本で説かれている説は、現在のアカデミズムでは支持者はすくないと思われますが、それぞれのジャンルに興味のある読書人がたのしめるようなラインナップということができるかもしれません。そうした点に考慮すれば、現在でも有益な内容を含んでいると感じました。