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驚愕、凄惨、冷酷無比、残忍。
これほどまでに死刑のバリエーションを思い付く人間の創造力に愕然とします。
見せしめや犯罪の抑止力としての域を遥かに超えてます。中世ヨーロッパでは、公開処刑は庶民の娯楽の一つだったと言いますが、そんな時代・国に生まれなくて本当に良かったと心底思います。
スタンダード監獄事件やミルグラム実験というのがあります。閉鎖的な環境下における、権力者の指示に従う心理状況を実験したもので、それと同じ環境にあったものが世界中で体系化・展開しているんだと思います。アウシュビッツ大虐殺の心理状況も上記環境にあったのではないかと研究が進んでいます。
簡単に言えば、所謂「普通」の人でも、残虐行為の権力と仕事を与えられると、その行為がどんどんエスカレートして、より傲慢、より暴力的、よりサディスティックになる、というもので、とても恐ろしい実験結果です。
ただ、280ページもありながら死刑廃止へ訴えかける論理的な文章は少なく、本書は死刑史そのものを資料に基づいて述べているだけで、肝心の著者の主張(死刑制度そのものについての問いかけ)は弱い印象を受けます。もう少し主張を強く前面に出しても良いのでは、と感じました。
他国の例を挙げ、世界の趨勢としては死刑廃止は時間の問題だと言います。
人間が人間を裁くという、システム上の問題(誤審や誤判)を理由に死刑廃止を主張する人がいるみたいですが、では更に突っ込んで、誤審や誤判が起きないようなシステムが開発された場合、上記死刑廃止論者は果たしてどんな主張を展開するのでしょうか。また、死刑者が受ける「予告殺人」は、執行期日までの多大なる恐怖は想像を絶するもので、一方被害者は瞬間的、突発的に殺されるわけで、その精神的苦痛の度合いは比べ物にならないと言う人がいるみたいですが(本書に死刑廃止の論拠として述べてあります)、殺人に対して予告があろうがなかろうが「殺される」という受動的態度に上下をつける理由はありませんし、いきなり殺される身になってみれば、たまったものではありません。
僕の死刑制度に対する是非の回答としては、「事実上廃止」が適当かと思います。基本的には死刑を廃止する、但し、加害者の意向があれば死刑も可とする。……死刑そのものの是非について深く考えたことがないので浅慮浅学平凡な問答になってしまいます。。
学問的見地から書かれたもの、という印象は少なくて、それならばと「読み物」として読むと面白いです。