紙の本
ときには死の影もさすプロヴァンス
2008/08/24 18:08
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikan - この投稿者のレビュー一覧を見る
「輝く太陽と豊かな自然をもとめて故郷プロヴァンスの片田舎にやってきたドーデーは、風車小屋に居をかまえ、日々の印象をパリの友人にあてて書き綴る。(表紙より)
日々の印象といっても様々で、うわさ話に訓話、紀行文に幻想詩、と独立した文章の集積で、適当なところを開いては、そこから楽しむことができました。「スガンさんのやぎ」「アルルの女」のように、独立した作品として親しまれているものも入っています。
「南仏」「プロヴァンス」で抱く、光かがやく楽しい世界というイメージは裏切られます。ミストラル(北風)は本当に厳しいらしい。そして難破し沈んだ軍艦の話、陰惨な小屋の中で肋膜炎に臥せる船乗りの話(どちらも舞台はプロヴァンスではないですが)などもあり、死や病、貧しさに関わる話がこの本のひとつのトーンを作っています。
そのほかの話では、旧友の両親の見舞いに行かされ、そこで老夫婦の睦まじさに心うたれる話、山の上でひとりで過ごす羊飼いが、憧れのお嬢様との邂逅に胸ときめかす話などが、なんとも心があたたまりました。アルジェリアの街の様子や湿地帯での狩りの記録なども、それぞれの空気の温度や光の様子まで伝わってくるようです。
頭でお話を作っていない、というのが新鮮に感じます。詩人の仕事、ということでしょうか。100年以上前を生きた人が持つ現実の力でしょうか。自然の荒々しさも、退屈な時間も、人の裏切りや愚かさも、皆、実際に直面し、それに彩を与える言葉を持つ人が切り取ることで、ひとつひとつ独自の色、存在感をもってきます。「珠玉の」という少々気恥ずかしい言葉が良く似合う短編集、版を重ねている理由がよくわかる一冊でした。
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24の短編を収めている。
羊飼いが、嵐で帰れなくなった主家の美しいお嬢さんに、夜空を見上げながら星の話をする
『星〜プロヴァンスのある羊飼いの物語〜』
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本当は新潮社の文庫本なんだけど・・・なかったので適当に。とても古い本だったからなぁ・・・。何ともいえない牧歌的な文章(なんだと思う)。空気の冷たささえ肌で感じられるな文章を通して、見た事もない光景がパァッと目の前に広がるようである。世界のその美しさは、今とは違うのだろうか。・・・もっと読みて〜!
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たいへん、想像力を刺激される短編集だ。なんといっても、「スガンさんのやぎ」や「星」はとてもいい話だし、税関水夫や灯台守、はやらぬ宿屋の女主人、狩猟場を管理する孤独な男など、注目されないような田舎の庶民の生活に目を向けるところが、やさしい目を感じます。嵐に角をむけてうずくまる牛の群れや、アルジェリアで遭遇した「あられのように降ってくるバッタの群れ」など、自然の描写も面白い。僧侶については、ユーモラスな話が多く、プロヴァンス語を再興した詩人、ミストラルとの交流もなかなか面白い。「最後の授業」ではその国家主義的言語観が批判されるドーデーだが、この短編集を読めば、田舎にすむ人々のリアルな生活に目を向けていた詩人であり、コチコチの国家主義者ではないことが分かります。パリで書いた都会的な作家だけでなく、19世紀にもこういう人がいたんだなと分かり、とても面白いです。
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古書フェアで入手。昭和49年10月20日発行、第48刷。
有名な小説集だけど、未読だったのでGWの読書にと手に取った。
さらっと読める掌編が24個。どれも味わい深いが、「カマルグ紀行」が気に入った。
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名作ということであるが、少し、宗教色が強い感じがする。かなり、昔の本なので、入り込んだのかも、後半になるとプロバンスの平穏な生活が描かれて面白かったです。
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最近は「ドーデ」といふ表記が一般的のやうですが、ここでは岩波文庫版に敬意を表して「ドーデ―」で通しませう。
筒井康隆氏の『乱調文学大辞典』で「ドーデ―」の項を引くと、ただ一言「何が?」と書いてあります。初めて読んだ時は吹き出したものです。これが仮に「ドーデ」ならば、この項は成り立ちませんので、やはり「ドーデ―」に一票投ずるところであります。
アルフォンス・ドーデー(1840-97)は、風光明媚な南仏プロヴァンスの風車小屋へ移住しました。今風に言へば田舎暮らしでせうか。うさぎやふくろうといつた「先住民」たちを驚かせながらも、自然と田園生活に溶け込む様子が活写されます。
ドーデ―はこの地で、パリに住む友人に宛てた手紙形式で、30篇(「序」を含む)の短篇を収めた『風車小屋だより』を執筆するのです。ただし岩波文庫版では、27篇しか収録されてゐないやうです。残る3篇はどこへ行つたのだらう。意図的に翻訳しなかつたのでせうか。
内容は、主に風車小屋のあるプロヴァンスでの出来事を綴つたものですが、実際に見聞したことや伝聞で知つたことを題材にしてゐます。「スガンさんのやぎ」「法王のらば」といつた動物を擬人化したものや、「散文の幻想詩」「黄金の脳みそを持った男の話」のやうに幻想的な物語、「アルルの女」「二軒の宿屋」みたいな悲話など、文字通りの珠玉篇が読者の胸を打つのであります。
中でも、後に歌劇で有名になつた「アルルの女」は、タイトルとなつたアルルの女本人は登場せず、彼女に心奪はれた若者の行動を描写することで、読者の想像を掻き立てます。
毎日忙しく、精神的に余裕のない生活を余儀なくされてゐる人なんかには、最適の一冊ではないですかね。ドーデ―の風車小屋を想起しながら、一服いたしませう。
デハ御機嫌よう。ご無礼いたします。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-635.html
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以前に読んだのは20歳くらいのころ。
図書館で借りたこの本を、全体になんとなくいいなあと思ったのと、最後の一文が強烈だったことを覚えている。
そこから古本で入手→度重なる引越しで手放す→数年前に山本周五郎の「青べか物語」を読んで、モデルとなったこの作品をまた読みたくなる→再購入を検討。品切れだったからまた古本屋で買った。
30代後半のいま、この作品のどこに自分が惹かれたのか、以前よりもっとわかる気がした。
(スティーブンソンの旅は驢馬をつれて、みたいな、シングのアラン島みたいな、都会から来た文化人が田舎の生活風俗を書き残すスタイルが大好きではある。)
今回、好きだと思った章は
・コルニーユ親方の秘密 オペラになりそう
・スガンさんのやぎ オペラになりそう
・星 一番好き 長いお芝居を見たような余韻
・サンギネールの灯台 何もない灯台に一冊だけある、プルタルコス伝、そりゃあ読みまくるだろ…
・詩人ミストラル 最後のところで、廃墟になった王城、それが亡くした言葉の再建だというフレーズ、カッコ良すぎませんか。
・二軒の宿屋 オペラのよう。アルルより受けそう。
・ミリアナで まるでベニスの商人。アルジェリア編すごくいい、もっと書いて
・カマルグ紀行 内容というより、短文の名文で綴られる景色が素晴らしい。声に出して読みたくなった。この中の「赤と白」で、孤高に生きる馬の番人が、日がな一日、薬の効能書を読んでいる、ほかに何も読むものはない。唯一の話し相手である、隣の番人とは政治思想が違うので相容れない、ってすごい話だな。
だらだら書いたけど、他のもいい。全部いい。
この日本語が100年近く前のものだと思うとありがたくて嬉しくなる。
また10年以内に読みたい本。もう売らないよ。
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フランスの詩人ドーデーの紀行短編集ですね。
アルフォンス・ドーデー(1840ー1897)は南フランスのニームで生まれ、パリで亡くなった。
この短編集は、フランスの南部、プロヴァンス州の、アルルの町を舞台にした24篇の手紙文による物語です。
この中には、「アルルの女」もあり、後にドーデーが戯曲にして、ビゼーが名曲にした原作も含まれています。
南仏の美しい自然と人々とのふれあいや、旅の思いでなどを感情豊かにユーモラスを交えて綴られています。
初版の訳が1932年で二度の改定があり、この本は2005年版です。
かなり古いタイプの文章なのですが、そこがまた味わいがあって、面白く読めますね。話し言葉の文章が、臨場感を醸し出しています。
ドーデーの詩創が溢れんばかりにあらわれた名作ですね。