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日本各地の図書館や書店で「アンネの日記」のページが破られるという被害が続出した。この事件により「アンネの日記」がクローズアップされることになったのだが、世界的名作にも関わらず、今まで読む機会を先延ばしにしていた本の一つである。事件の報道をきっかけに積読棚を漁っていて発見したのが本書。オリジナルのボリュームには及ばないが、読めば「アンネの日記」の概要は把握できる。それに加えて写真や客観的な解説、さらに巻末の年表によってアンネ・フランク一家を取り巻く人間関係や当時の政治社会情勢がとてもよく理解できる。ナチやアウシュビッツについては「夜と霧」などの関連本が多いが、それぞれの視点による描写はどれも意義が大きい。第二次世界大戦終結からまだ一世紀すら経過していない。歴史教科書の年表をみてみれば、各戦争の隙間はほんの一瞬だということがわかる。第二次大戦以前でも人類の歴史のなかで概観してみれば、現在と同じような状況は何度もあった。「数々の経験を経て愚かな行為を二度と繰り返さないと誓った」からといって、それを信用できるほどに人間は賢く偉大な生物だとは思わない。「当時に比べれば現在の状況は恵まれている」そう語る人達もいる。しかしベクトルの方向が一致していれば、いつの間にか取り返しのつかない状況に巻き込まれていることにもなるのではないか。歴代の独裁者は繰り返し言っていたはずだ。「国民の皆様のために」と。