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美貌だが自己中心的で支配欲の強いグェンドリンは突如全財産を失ったために、金持ちだが冷酷なグランコートと結婚する。彼に内縁の妻子がいることも知ってはいたが、誤算だったのは彼の支配力の方が勝って屈従の日々を送らされることだった。他方育ての親ヒューゴー卿に英国紳士として育てられたダニエルは、グェンドリンとユダヤの娘マイラの危機をそれぞれに救ったことで、両方から敬愛されるにいたる。やがて自らがユダヤ人であることを知ったダニエルは、マイラの兄に共鳴しシオニズム運動の先駆けとなる思想に生涯をかける決心をし、マイラと結婚してパレスチナに旅立つ。夫の財産を内縁の妻の息子にすべて与えられ、貧しい未亡人になったグェンドリンも、ダニエルに励まされ、他人への善意に満ちた生き方をしようと前を向く。
G.エリオットが得意な高慢な女性グェンドリンの心理がよく描かれている一方で、ダニエル(マイラもだが)の言動は抑制されすぎでおとなしすぎるためリアルさを欠く。どちらが真の主人公なのかわからないほどである。
翻訳は全体として読みやすく、宗教的・哲学的な個所が難解なのは訳者の責任ではないところが大きいように思う。ただし引用文献の注釈などが一切ないのはいかがなものかと思う。