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ただただ敬服の意を感ずる。
自らの世界の、詩的な神への敬慕の横溢によって、
彼の視線は社会的な、人道的な活動へと深まっていく。
私は、自らの世界の豊饒さばかりに勢力を注ぐ現在の姿を、
恥じると同時に、いつかタゴールのように、
民衆の痛みを我がものと感じ、
その痛みを源に、活動に勤しんでいける日がくることを誓う。
今の私は、軽薄で愚かな人間だ。
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詩神に求愛して、その愛をかち得たとき、ラビンドラナートの内なる人間は、より広い行動の場の必要を、すなわち、人間世界に生きる一個の人間として、より完全な生きざまの必要を感じるようになった
領地の管理という毎日の無味乾燥な事務的な仕事をとおして、国民の大多数がどのような暮らしをしているかを、じかに見ることができたのだ。彼は農民たちを愛しはじめていた。そしてその愛は、不具の子をもつ母の様に、彼らの無力を理解させたのである
タゴールは、個人がやる気を失い、自力で道を切り開いていけるような問題で国家の援助や指導を期待するような状況を、健全な社会の姿とは考えなかった
タゴールの農村開発計画は、自立と啓蒙を両輪とする原理に基づいていた。後者を重視する理由は、国民がやる気を失っているとすれば、それは肉体的・精神的に無気力になっているためだけではなく、精神が去勢されたからとした
タゴールはしだいに自らも教育者・社会改革者の役割を果たさざるをえなかうなっていた
第一級の知識人でありながら、詩人ではなく、人間として彼の関心は農民の上にそそがれていた
国民大衆の生活に向けられたタゴールの関心がもっとも生き生きと現実的であったこの時期に、彼の詩が神秘主義的な感受性の芽生えを召せ始めている
神秘主義は、意識して彼が採用したものではなかった。
幸いにして彼は哲学者ではなかった。そのためになぜとか、いかにしてとかいう問題に頭を悩ませずに、ただ演奏されることで満足していた
自らの音楽に陶酔する詩人の心と、国民の惨状に思いをいたす詩人の両親の葛藤
他のひとたちが何か有益な仕事に従事していたときに、詩人は夏の昼下がりにずる休みをきめこむ少年のように、横笛を吹いて悦に入っている自分を責め、自らをいましめてうたう
彼はガンディーとは違った。彼はひとつの理想や使命にとりつかれることはなかった。彼には心をそそのかす美の女神たちのハーレムがあったのだ
彼は政府の弾圧政策に抗議し、カルカッタにペストが発生すると、救助活動と医療組織を構築した
全体的に見て、それは文学上の成果、精神的発展、社会とのかかわり、そして人間としての戦いと、どのような方面から見ても、すべての面で実り豊かだった。この年をもって、彼の詩神と家族のことだけに責任を負えばよいという、かつての個人的な自由な身と決別したのである。彼の魂は、いよいよ神への誓いを強め、人と世界の恋人は人間の教師となり、詩人は予言者の衣をまとうことになる
仕事のための閑静さと、執筆の合間の余暇をみた活動的な仕事の必要を痛感していた