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紙の本
赤道のメランコリー?ちがう、しずかな熱情と、したたるほどの愛!
2000/07/28 23:01
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投稿者:コヨーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノンフィクションなのにフィクションだと思われてしまう作品が、ときどきある。有名なところでは今年生誕100年をむかえたサン=テグジュペリの永遠の傑作、『人間の土地』。飛行機という特異なテクノロジーの創成期に、郵便飛行路の開拓という前人未到の使命をおびて孤独な空の旅を重ね、そのまま空に消えていった著者のこの記念碑的作品は、アカデミー・フランセーズの小説大賞を受賞し、フランスのみならず英語圏でも大ベストセラーとなった。その秘密は、やはり言語だ。エレメント(地水火風)のぶつかりあいをそのままにうけとめ、これでもかこれでもかとくりだしてくるしずかな鉱物的叙情の爆発。そんな言語が、事実をほぼ正確に伝えることを使命とするノンフィクションというジャンルとは、どうにも相容れないものだと思われてしまうのだ。
現代フランスの哲学者・作家・ジャーナリストであるジル・ラプージュのブラジル旅行記も、やはりそのような系譜に属する。本質的に内省的な、きわめてものしずかな魂が、故郷である北アフリカをずらし、ヨーロッパを相対化する土地としてのブラジルに、20代半ばの数年をささげる。それから三十年、初老に達した男がはじめてブラジルを再訪し、過去の夢と達成された現実、現在の夢とありうべき未来のすべてを、まるでおとぎばなしの国のようにふわふわしたリアリティに浮かぶこの途方もない国の各地に、ひとつ、またひとつと見いだしてゆくのだ。
その文体のすばらしさは、形容のしようがない。心のすばやさがそのままに表れ、太陽が照れば太陽に、雨が降れば雨に、風が吹けば風に、ページが姿を変えてゆく。ものすごい速度と、ブラジルの五百年を相対化する緩慢さが混在し、笑いと涙の一歩手前が、果汁の甘さをもってしたたる。これが、ブラジル。本当に、そう。ジョアン・ジルベルトやエギベルト・ジスモンチをかけながら、夏の夜、これを堪能すれば、もうどこにもゆく必要はなさそうだ。
訳者によるまえがきとあとがきも、徹底的に熱い! たぶん、ここまで原作者と訳者が同期している翻訳書は、めずらしいのではないだろうか。フローがあり、リズムがある。読み終えたら、ブラジル・レストランに出かけるのもよし、『セントラル・ステーション』をビデオで見るのもよし。どちらにも、道はまっすぐにつながっていて、無限に伸びている。
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