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DNAの構造解明で知られるフランシス・クリックの自伝。
有名なワトソンの本が人間ドラマに軸足を置いて書かれていたのに対して、本書は科学そのものに焦点が当てられている。また、"DNA後"の著者の研究についても、かなりのページ数が書かれているのが、本書の特徴と言えると思う。その意味では、生化学や分子生物学の知識なしに楽しめるワトソンの本とは一線を画している。
興味深かったのは、塩基対というアイデアがシャルガフの規則を前提にしているという整理された通説を少なくとも個人的なレベルでは否定していることだ。シャルガフの規則があったからこそクリックらのモデルが十分な蓋然性を持つものとして受け入れられたという側面は否定出来ないと思うが、元々はそれとは関係ない著者らの棚ボタ的思いつきが出発点になったという。
科学の方法論に関して、著者が強調しているのは、「モデル」と「デモンストレーション」を区別するべきだということだ。モデルは数多くの実験事実を統合するような仮説であって、デモンストレーションあるいは「『気にかけない』理論」は単に説明がつく程度で少数の実験事実と適合するにすぎない理論のことを言うのだという。クリックは、理論家が後者に惑溺しがちであると複数の実名を挙げて幾度も批判している。DNAのモデルで名声を得ただけのことはあり、この種の議論には相当な思い入れがあるようだ。