紙の本
クトゥルフ+他怪奇
2023/05/30 14:38
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投稿者:R - この投稿者のレビュー一覧を見る
ラヴクラフトの「インスマスを覆う影」がよい。
ハワード「屋根の上に」は冒険チック。
カットナー「侵入者」
スミス「名もなき末裔」
このあたりは流石によい。
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CAスミスの「名もなき末裔」が入ってておっと思ったけど、訳が詩的さのない、ざっくりした語りで物足りなく感じた。大瀧訳が読みたかったな。
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クトゥルフ神話に限りませんが、物語において登場人物が危機を迎える契機は概ね「自ら立ち入る」か「巻き込まれる」かのどちらかでしょう。前者は良くも悪くも自業自得の結末を迎えることが多く、後者は巻き込んだ相手が悲劇的な結末を迎えることが多いと感じます。
ところで、現実は巻き込まれるパターンが圧倒的に多いと思いませんか? 特に、今巻に収録されている『電気処刑器』に登場する、正論が通じず、一方的に主張や自論を押し付けてくるような相手に。
8集は異形ではなく狂人を相手にする密室劇『電気処刑器』を始め、ラヴクラフトの傑作『インスマスを覆う影』など7編を収録。
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『屋根裏部屋の影』(ダーレス&ラヴクラフト/1964)
遺言により、九十日間にわたって亡くなった大伯父の家に住むことになったわたし。明かりを持ち込んではいけないとされる屋根裏部屋にあったのは――。
(舞台はアーカムだが、そこ以外はクトゥルフ神話の要素は一切ない妖術師もの。むしろキリスト教系のホラー要素が強く、そういう意味ではラヴクラフトの『レッドフックの恐怖』に通じるものがあるかもしれない。)
『侵入者』(カットナー/1939)
友人で作家のヘイワードに呼び出されたわたしとメイスン。身の危険を訴えるヘイワードの正気を疑うが、鴎とおぼしき甲高い声、蔓を思わせる象牙色の触手、そしてメイスンが目撃した異形の存在がヘイワードが正気であるということ、そして私達の身にも危険が迫っていることを教えていた――。
(カットナーが創作した善神ヴォルヴァドスが初登場する作品。ロングの『猟犬』の影響を伺わせつつ、「こんな所にいられるか!」や前半の展開から事態を打開するヒントを得るなど、ホラー映画のテンプレに近いが面白く読める内容。ちなみに襲ってくる怪物は、後にTRPGでニーハン・グリーと名付けられる。)
『屋根の上に』(ハワード/1932)
突然わたしのところに訪問してきたタスマンは、『無名祭祀書』の初版本の入手の協力を要請してくる。提示してきた、身勝手かつ強欲な彼らしくない破格の条件に彼の本気を感じたわたしはその申し出を受け、入手した本を彼に手渡す。本を開いて目的の頁に目を通したタスマンは、目的が財宝探しであることを告げるとすぐに旅立っていった。その数カ月後、彼の呼び出しに応じたわたしは、惨劇を目撃することに――。
(自身の強欲さが我が身を滅ぼすという、神話においてはポピュラーな展開。ツァトゥグアとの関係性を伺わせるからか、登場する怪物はTRPGでツァトゥグアの末裔と名付けられた。)
『電気処刑器』(カストロ&ラヴクラフト/1929)
社長の命令で不本意ながらも人探しにメキシコに行く羽目になったわたし。しかも道中の電車内で一緒になった男に、自作の器械の実験体として殺されそうになり、製作の経緯を訊いたり書類の作成を勧めたりして、なんとかこの危機から脱しようとするのだが――。
(原作者であるカストロからの依頼によりラヴクラフトが改作(脚色などして新しい作品にすること)した作品。殺されまいと時間稼ぎに必���になるわたしと男との攻防がメインだが、頭の中で絵にするとなんだかコントっぽくなった。)
『潜伏するもの』(スコラー&ダーレス/1932)
ビルマ(ミャンマー)の探検隊の一人であるわたしは、たまたま単独行動をしていたために謎の現地人の捕虜にされる。連れて行かれた先にいたのは、同じく彼らに捕らえられていたフォ=ラン博士だった。博士の言によると、彼らは地下深くに封じられている邪神に仕えている種族で、彼はその復活に協力させられているらしい。しかし博士にはこの状況を打開する秘策を持っていて――。
(初期の頃の作品だが神話における対立構図の説明や旧神による邪神の殲滅など、ダーレス流のクトゥルフ神話の要素が大きく表れている。)
『名もなき末裔』(スミス/1932)
イギリス旅行中に道に迷ったわたしは、偶然にも父の学友であるトレモス卿の屋敷にたどり着く。その晩に卿は急死してしまい、わたしは彼の召使いと共に死体の番をすることになったのだが――。
(比較的ラヴクラフトら先人の影響を強く反映されていることを伺わせる作品。冒頭でネクロノミコンからの引用を載せている点で、本作がクトゥルフ神話に連なるものであることを意識的に印象づけている。)
『インスマスを覆う影』(ラヴクラフト/1931)
好奇心から怪奇な伝承が伝わる街を訪れてみたわたしは、そこで恐ろしい話を聞かされる。しかし、真の恐怖はそこから始まったのだ――。
(終盤で回収される伏線には驚嘆を、メリーバッドなエンドには普通のホラーにはない哀愁を感じた。異形を単なる敵やモンスターとして描写しない点にラヴクラフトらしさを意識させる。)