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河出書房新社 新文芸読本 宮沢賢治 略伝と 研究者や愛好者の論評集。主要作品のメッセージ、妹とし子の死と作品の関係性、アリス世界との共通点を取り上げた論評は面白かった。
略伝として、父への遺言(法華経の布教について)が論述されていた。絶筆短歌が辞世の句ではないのだろうか。
「銀河鉄道の夜」「春と修羅」「鹿踊りのはじまり」の解釈、目の付け所、指摘は 参考になった。
*「銀河鉄道の夜」の世界観は キリスト教ヨハネ黙示録では?
*「春と修羅」の意味〜春=まことの現れ、修羅=非まこと。なぜ賢治は 修羅としていきることを自己規定したのか。
*「鹿踊りのはじまり」の自然共生思想とは何か。
「春と修羅」
*2つの相反する語の組合せ→おれは修羅(自己規定)→修羅=非まこと〜まこと=宮沢賢治の思想である宇宙意識
*春=まことの現れ→琥珀のかけら、聖瑠璃の風
*「日輪青くかげろへば」怒りが悲しみへ移る
*まことの現れ(春)に接し→自己の修羅性への怒り→新しい行動へ
宮沢賢治「口語自由詩は 心象スケッチ〜ほんの粗硬な心象スケッチ」解釈
*心象とは 心理現象でなく 宇宙意識を中心とする心の動きのこと
*心象は 観念や表象でなく 視覚的実在感〜心という実体のこと→見たものを厳密に語ること
*賢治にとって スケッチは 鋭いメスのように 彼の脳髄に侵入し、彼を解体そのものを観察したもの
修羅(なぜ賢治は修羅として生きることを自己規定したのか)
*修羅は 六道の中で 人間と畜生の間に位置→修羅は 荒々しく力強い原初の生命そのもの→賢治の内なるデイモン
*デモニッシュ=悪魔的、超自然的なエネルギー〜風、雷雨
妹とし子
*とし子は 鳥のイメージと結びつく〜二羽の鳥
*なぜ二羽なのか〜死んだ妹と共に行けない詩人の魂と妹の魂
「鹿踊りのはじまり」
*日常から非日常へ、この世からあの世へ、俗から聖への移行と転化が描かれている
*擬人化と逆のアプローチ〜人間が 動物の方に引きつけられる→ケモノたちは 人間のためにあるのではない
アリス的世界のナンセンス
*イーハトーブは アリスの鏡の国と同じ世界にある
*どんぐりと山猫〜「いちばんえらい」という言葉を 無意味化したナンセンス
賢治と宗教
*銀河鉄道をめぐる天上界は 美しいキリスト教的イメージ〜ヨハネ黙示録→新天地の描写
*サソリの火〜賢治の捨身の祈りを結晶させたもの
河合隼雄「銀河鉄道の夜の全体を通じた透明さ〜は死後の世界を描くときの感じと似ている。鳥を捕る人は 人間の魂を摑まえるよう」