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うぅん、洒脱。それとどこかアートの香り。
庄野潤三の様な“静”の小説家には間違いないが、作中で登場する謎と、解明も無くプツンと終わる話の様式が心地良い。特に表題作、『黒と白の猫』辺りは格調高い名作。
他作も確実に巧いんだろうなと、読者の信頼を引き出させる一冊だった。
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「黒と白の猫」からの四編は、いわゆる大寺さんもの。
妻の突然の死。しかし声高に悲しみが描かれることはない。
ー兎も角、死ぬにしてもちゃんと順序を踏んで死んで呉れりゃいいんだけれど、突然で、事務引継も何もありやしない。うちのなかのことが、さっぱり判らない。
ここだけ読むと、奥さんの死を悼んでいないように取られかねないが、一見淡々とした言葉の連なりの中に作者の悲哀や喪失感が感じ取れる。
「エヂプトの涙壺」「断崖」「砂丘」の三編は、男女関係にまつわるサスペンス味豊かな作品。本書の中ではかなり異色な感じ。
表題作の「懐中時計」。時計をなくしてしまったところ、友人が懐中時計を売ってあげるとなったが、値段の折り合いがつかず、その後もちょっとした交渉はあったものの本気にならずに時は過ぎる。そうして10年が経つうちに友人は突然亡くなってしまう。何が起きる訳ではないが、人生とはこんなものかと考えさせられる。
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大好きな小沼丹。
途中まで読んで数年放置、最後までやっと読めた。
毎日寝る前に少しずつ読んで、不思議な気分になった。
突然奥さんが亡くなる大寺さんシリーズが含まれており、全体にほのかに死の匂いが漂う。
でも淡々と時間と生活を描いていて、ここにしかない境地なんだなと思う。
明るくはない、湿っぽくもない。
本人の後書きによれば、このころ、なにを書くかではなく、何を書かないか、を考えて書いていたらしい。
エヂプトの涙壺、影絵あたりが好み。
小沼ワールドに浸ると接続詞まで漢字で書きたくなる。
真逆はマサカ、フトは不図。
これが母語で読める幸せ。
もっと読みたいけど、講談社文藝文庫は高いんだよね。
その分の価値はあるんだけど、一冊1200円はやや躊躇する値段です。