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紙の本
ジェイコブズ「猿の手」、ホジソン「夜の声」、ビアス「アウル・クリーク橋」といった怪奇幻想短篇の珠玉品ばかりを並べた重宝な1冊。児童向け文庫ながら満足度高し。
2003/12/18 11:43
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
若島正先生の『乱視読者の英米短篇講義』は良質の情報と刺激に満ちたブック・エッセイ。おなかいっぱ〜い大満足だったが、どんな作品から始まるのだろうと手にしたところ、本書に所収の「アウル・クリーク橋」からなのであった。
それは、若島氏言うところのマイナー小説とはちょいと異なり、日本で言う「東海道四谷怪談」とか「おいてけ堀」のような認知なのではないかと推察するが、ヘミングウェイやオコナー、スタインべックにメルヴィル、モームでもなくこの短篇小説がくるのね…と思わされた。虚を突くかのようでありながら、その著書に一貫する厳然としたテイストを予感させる個性的な選択で、期待感がぐっと高まった。
「アウル・クリーク橋」はずいぶんいろいろな小説や映像作品に影響を与えているらしい。私の場合、小説『アメリカン・サイコ』の方は読んでいないのだが、映画の方を観たとき、ラストシーンで「これってアウル・クリークじゃん」と感じた。
「とどめの一撃」という言葉があるけれども、この作品の最後数行の急転直下ぶり、読み手を出し抜く手管は、まさにそれだ。仕掛けを凝らした小説がさんざんあふれる今となっては予想できない展開でもないと言えようが、ラストに至るまでに、要領のいい設定の運び、思い出の美しい描写などによって十分に作者ビアスの術中にはめられているから、終わりであっけなくも刺されてしまう。
北軍兵士たちにつかまった南部の農園主の話である。彼は、今このときアラバマ州北部アウル・クリーク橋の上で、首吊りの刑に処されようとしているところ。首にロープがかけられている。…と、紹介はそこまでに留めておくことにしよう。
今現在、新刊流通の翻訳もので「アウル・クリーク橋」が読めるのは本書ぐらいのようである。子どもの本の文庫シリーズというのは、どれも一般に言う文庫本のサイズとは異なって新書サイズだったり、もっと大判だったりするのだが(もともと「文庫」というのはサイズを表す言葉ではないし)、岩波少年文庫をはじめとして、長く読み継がれるロングセラーを目指した本作りがされている。従って、良い翻訳者に恵まれていたり、質の高いアンソロジーが編まれていたり、行間がゆったりしていて名作が読みやすかったりするので、私は重宝している。
侮れないというか、下手に新しい一般の小説に手を出すよりも、子どもの本のロングセラーを選んだ方が、充実した時間を過ごせる確率が高まると考えている。余談のしすぎだが、この偕成社文庫シリーズでは、雨沢泰氏の訳が感じよかったので『モロー博士の島』『タイムマシン』といったところを読んだ。
若島先生の本を読んだためにこの本を思い出し、ほっくり返してきたわけだけれども、「アウル・クリーク橋」のほかの作品も、ホラーや怪奇幻想小説が好きという人なら、一度はくぐるような堂々の古典作家たちの名品揃いである。不幸にして、現代作家たちに多大な影響を与えたそういう作品に触れたことがまだない読者、これからホラーのような傾向のものを読んでいってみたいという人にも、満足いく1冊だろうと思う。
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