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これから「とはずがたり」を読んでみようという方には解り易い入門書。
講義録を起こしたものなので、平易で理解しやすかった。
しかし、原典を全て紹介しているのではないので
内容は落とさず紹介されているが、理解のためには
校注された原典を手元に置いて、参照しながら読むのが良い。
平安時代の古典は馴染みがあるが、中世となるとあまり読んでいず
大学で学ぶことになったので、予習として読んでみた。
「とはずがたり」は、複数の男性に愛された
後深草院二条という上臈女房の日記文学だが
この作品の背景には、伊勢物語・源氏物語、
更には仏教の教養など広範で豊かな宮廷文化と文学の
素養があったことが理解される。
単に愛情生活の告白を目的とする、暴露本のようなものではなく
後見人が転々と変わっていく中、機知と魅力と流転する儚い愛情を
頼みに後宮での生活を生き抜き、退下の後は女西行と言われるように
仏道と歌道に生きがいを持った女性の、一代記として読むと
また見方が変わってくる。
前半の上臈女房としての生活が華やかなだけに、退下後は落魄の
イメージがあるが、作品を残したところを見れば、簡素ながらも
落ち着いた生活だったのだろうか。
奔放な女性の言い訳の本ではなくて、すべての愛や変転にも
崩れない心の高さと、それを支えた矜持と仏道への悟達を
率直に描いたルポ兼私小説と思えば、当時の女性の中でも
傑出した人であったのかなと窺えるものがある。
これ一冊で「とはずがたり」を理解するのは難しいが
アウトラインを理解し、原典やさらに詳しい専門書に進むには
とても良い本であった。