紙の本
異世界とは本来、不穏な場所なのです
2007/03/25 22:00
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』で、ウサギを追いかけたアリスは何のためらいもなく謎の穴(不思議の国への入り口)へ飛び込みました。そのあっけらかんとしたところが作品の魅力でもあるのですが、やはり普通はもっと躊躇するでしょう。初めての店に入る時でさえ、人はいくらか尻込みするものです。まして、現実とかけ離れた別の場所に一歩を踏み出すとしたら、興味と憧れ、好奇心、不安……感情が高ぶって、とても平静ではいられないのでは。
「時計坂の家」は、まさにその、異世界へ踏み込む際の揺れる気持ちを上手く描いた作品です。主人公フー子は祖父の家で、階段の踊り場に不思議な扉を見つけます。扉の窓枠には黒く錆びた懐中時計がぶらさがっていました。錆びた懐中時計が時を刻み始め、花に姿を変える時、窓の向こうには緑の園が広がるのです。
祖父はフー子に、その扉はかつて物干し台に続いていたと言いました。まだ若い祖母が転落死した為に物干し台は取り壊され、扉も木で打ちつけられたのだと。けれど祖母が本当は事故死したのではなく失踪したのだと知った時、フー子は祖母があの扉を抜けて幻の園に入り込み消息を絶ったのだと確信するのです。
緑の園に不穏なものを感じながらも、どうしようもなく心を奪われ、フー子は足を踏み出します。フー子がさまよう世界は魅惑的で美しいけれど、明るくも楽しくもなく、読み手に息苦しいほどの緊迫感と不安を感じさせます。迷路のように生い茂るマツリカ、誰かが残した目印のリボン、揃いのスカートをはいた小さな娘たち、スカーフに隠された地図。
この作品で異世界は、禁断の場所でもあります。天才時計職人チェルヌイシェフが、己の愛する物を集めて築きあげた幻の王国は、憧れの代償を求めるのでした。かつてフー子の祖母が、庭に取り込まれてしまったように。
決して胸躍るばかりではない、異世界とのつきあい方を考えさせられた一冊です。危険と不安がつきまとい、けれどこの上なく誘惑的なファンタジーでした。挿絵込みで一つの世界です。
登場人物はみな魅力的ですが、私は特にフー子の祖父に共感を抱きました。彼は妻が失踪した後一度だけ、懐中時計が花に変わる所を目にしました。フー子と同じように、幻の庭園を目にしたのです。けれど彼は、ついに扉を開けませんでした。「ぼくは、ああいうものを、善しとしないからだ」そう語る彼をフー子は怖い人だと思うのですが。
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汀館と言う架空の街(おそらくモデルは函館)がとても素敵です。素敵なものに心が奪われてならない主人公に共感する女の子が多いはず。
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千葉史子 絵
何度体験しても、慣れるということのないできごとが
あるとしたら、これもそのひとつだった。
言いようのない不可思議さに、初めてのときと同じ眩暈を覚えるのだ。
そしてやがて、目の前に、ぼんやり、ぼんやり、
緑色の景色があらわれる。
牡丹色の霞の中から、ふうわり、ふうわり、立ちあらわれてくるのだ。
(見返しより)
12歳の夏休み、母方の祖父の住む汀館でフー子に起こった不思議なできごとのお話。
押し寄せ流されてゆく現実の中に、ぽっかりと口を開けた魅惑的な異世界。
今はなき祖母の謎と、時計細工の技師であり魔術師でありPOM(ロォム)と呼ばれた謎のロシア人チェルヌイシェフに迫るほどに、解き明かされ また一層謎に包まれる裏庭のその場所。
生まれながらにして見られる者と、それをじぃっと見つめる者。
魅惑的な園の主としてふさわしいのは・・・。真実に気づくのは、フー子が汀館を離れたあとだったのだが、そのことはきっとたしかに彼女を強くしたことだろう。
千葉史子さんの挿絵が物語の世界へするりと自然に誘ってくれる。
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何度も何度も読んだ本。
私が昔住んでいた家にも開かずの扉があった。それを開けると階段があり、大家さんの家に続いていた。
絶対に開けてはならないけれど、その暗い空間は私の想像を掻き立てるのに十分の吸引力を持っていた。
ある日勇気を出して登っていく。そこには赤い絨毯と古い人形と家具があり、急に怖くなって引き返した。
そんな記憶と共に、この本は私の心に引っ掛かっている。
鉛筆書きの絵と相俟って、アリスの女王の庭のように、整然としながらも妖しい異世界にぐいぐいと引き込まれ、くらくら眩暈がする、そんな秀作だと思っている。
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この本は私の人生を変えました。
読みたいのはこういう本なんだ!
夏休み、不思議な空とぶ庭園、きれいな従姉妹、謎の異邦人。
私って結構夢見る乙女やなぁ・・・
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高楼方子の中では一番好き。
ファンタジーの入り口くらいのリアルさ?と独特の薄暗い雰囲気がある。少女の想いも昔の気持ちを思い出させるようできゅんとするw
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12歳の少女の夏休みの出来事。「トム〜」と似た状況設定ですが、また違ったわくわく感が楽しめます。とにかく舞台設定が素敵で幻想的。
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従姉妹・マリカに呼ばれてやってきた、母方の実家。その家で、フー子は不思議な時計に遭遇します。錆びて開かない懐中時計が開き、花に変化すると、その奥から不思議な花の迷路が姿を現すのです。この時計と迷路は一体なんなのでしょう。
誰もが持っている、「怖いけれど惹かれる、美しいからこそ怖い」という感覚。このお話は、その感情を軸に動いているのでしょう。
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すごく好きです。1回しか読んでいませんが、(しかもかなり前)今でも心に居座っています(笑)
不思議な描写にやられました(え
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【トムは真夜中の庭で】を彷彿とさせる不思議な物語でした。
多感な時期の少女の心理描写がうまく、自分の子供時代を思い出します。
その頃に読んでいたら、きっと、その世界へ心を寄せて想像してすごしていたでしょう(笑)
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衝撃を受けた本トップ5に入ると思う。
小学校の時図書館で借りて、取り憑かれたように読んだ覚えが…
とにかく衝撃的な話だった。読む前と後では何かが変わったと思う。
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小学生の頃お気に入りだった児童書です。
総合図書館にて見つけたので久々に見直してみました。
ってなんじゃこら
怖えぇええええ!!!
当時の私は「何これ不思議ー面白いー」としか思ってなかったような気がしますが、今読むと恐っろしいよ!時計台から顔を出す熾天使像怖ッ!
挿絵(筆者の実姉らしいですが)がまた児童書とは思われない感じなんだ……。
園に入っていくフー子のほの暗い背徳感とか、正体不明のロシア人チェルヌイシェフとか、ジプシー、異国、港町、懐中時計、行方不明の祖母。
その他諸々の単語と共に、物語全体が薄暗く仕上がってて、リアリティがあるようでなくてとにかく怖い!
一部だけで見ると、12歳のフー子のたくましい妄想具合に早くも中二病かと呆れるのだけど、全体の雰囲気がそれを逆に自然に見せてくるという恐ろしさ。
昔の私が全く違和感を覚えず読んでいたことにも怖さを感じます。大丈夫か私。
しかし一番の問題は今でも本の世界に入り込めるところか。
もし私がこの園に入れたら、多分躊躇しつつも進んでしまいそうな気がする……。
いつか現実世界でもときめきを追い求めすぎて死なないように気をつけたいですはい。
なんだかんだで今も昔も惹かれることに変わりはないという本でした……。
関係ないですが、同人誌ってそうよね、本来こういう意味よね!と再確認いたしました(笑)
薄い本とか言うからどきっとしちゃったじゃない←
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An amazing book. It's more suitable to adults.
Somethings are extremely attractive but better left untouchable.
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高楼さんの本の中で一番好きな作品♪
夢中になって読んだ記憶があります。
このワクワク感は忘れられません・・・
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なんか不思議な話。設定は現代の日本なのに、ファンタジーだなぁ。女の子の憧れと、ないものねだりと、ほのかな恋?のお話でした。