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本長編小説の最後が、この第7部の『挑戦篇』である。
筑豊の炭鉱町に生まれてから、東京の大学に入学し、その後、学生運動や、ボクシングや、危険なアルバイトや・・その青春期のほとんどを学外で過ごしながら、「自分は何をやるべきだろう」と探しあぐねた一人の男の物語。
この最終篇は、そんな彼が、また新しい世界を知るために、ロシアへの旅を決意し、北海道から船に乗るところで幕を下ろす。
大河小説とも言われるほどの大作にも関わらず、結びはとても中途半端で、おそらく、著者の五木寛之氏は続編を執筆するつもりで、本編をだしたと考えられる。
きっと本作品の多くのファンは、まだか、まだかと続編を切望しながら、今日に至ったのだ。
1960年代後半、高度経済成長を目前とした激動の時代に生きた一大学生が、その後、見知らぬ大地で何を見つけたのか、いまさら私たちは知る術もない。
しかしながら、青春小説の終わり方の理想としては「まだ葛藤の中にいる」という瞬間に幕を閉じるのがよいと、個人的には思うので、この中途半端な幕切れは、悪くない。
おかげでこちらは、いつまでたっても主人公・伊吹信介を、旅に出たそのままの姿で焼き付けることができるから。
その後の成功も挫折も知らず、ただただ彼の無事を祈る。
とても、どうでもよいことではあるが、自身の大学生活の始まりとともに読み始め、いま読了した段階で、最後の伊吹信介と私は同じ齢。
今、大学生のうちにこの本に出会えたことには、本当に感謝したい。
最後に。
本篇のみに登場する人物・オーストラリア人のジョンさんという人がとても豊かで素晴らしい個性を放っていた。