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もはや誰も覚えていないようなことだが、ハッキングを代表とするようなネット文化は電話から始まっている。つまり19世紀からだ。ちょっとおもしろかったのは、電報の発明時にフランスのとある博士が「(ひとびとを)アナーキーで軽薄にしてしまう」と憂慮していたこと。実際、電話システムが動き始めた時、混乱を招いたとのこと。
ネットの権力は強大になった。GoogleにしろAmazonにしろ、一企業の枠組みを超えて公権力に匹敵するかのような状態になった。Twitterも公共性とともに語られることも少なくない。
先のフランスにおける憂慮は、本文中では「合理的中央集権政府の伝統を持つフランス」であることが遠因かのように書いてあるが、電話やネットは権力の位置を分散する。初期のハッカーがヒッピー文化と深いつながりがあることはよく知られているが、そのような反(脱?)権力志向はネットワーク技術に内包されていたといえる。
本書は90年代初頭の大規模なハッキング事件を主に取り扱っているが、いまでも示唆されることは多い。いまやハッキングは金銭を目的にしたような下品なものばかりだが(別に過去のハッキングが上品ともいえないが)、ネットそのものが権力となった以上、そうなるのもやむなしのように思う。
隔世の感があるのは、この本は最初期のハッカーに対する大規模な取り締まりについて書かれているが、その著者がSF作家であり、翻訳しているのもSFマガジンの編集長ということ。2023年、もはやインターネットからSFを連想するひとは限りなく少ないだろうが、こういう時代があったんだなぁとノスタルジックな気分にさえなる一冊だった。