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十九世紀デンマークの作家にして植物学者である、
イエンス・ペーター・ヤコブセンの短編集。
収録作は、
『モーゲンス』
青年モーゲンスの、夏の出会い、秋の愛、冬の悲劇的別離、春の自棄、夏の出会い、秋の新たな愛を、
豊かな自然風景の描写を背景に描いた作品
『霧の中の銃声』
身分の違いを理由に愛を受け入れられなかった男。
ある日、霧の中で女の夫を射殺した。
その葬儀の後、女がやって来て、夫が残した金銭的問題の解決を頼む。
しかし、男は断り、女は名誉が失われることに苦しみ病に倒れ亡くなる。
女の葬儀の前夜、弔問に訪れた男は、帰路の途中で霧に巻かれる。
霧の中、形のない「それ」は、男の喉に手を掛ける。
『二つの世界』
ザルッァハ川のほとり。
病気の女は「病気を他人に移す」という呪術を、ボートで通りかかった若いカップルの女に対して実行する。
女の病気は快方に向かうが、やがてボートの女の幻影に取りつかれるようになる。
一年後、女は川の流れの中に身を沈める。
その後、通りかかったボートの中には、かつての若いカップルである、新婚夫婦が乗っていた。
『ここに薔薇ありせば』
カンパーニャ平原を見渡すバルコンで、二人の小姓が愛と幸福について語り合う散文詩。
『ベルガモのペスト』
山頂にあり城壁に囲まれた旧ベルガモの町。
あるとき、麓にある新ベルガモの町でペストが発生し、新ベルガモは壊滅し、旧ベルガモでも、やがてペストが猛威を振るうようになる。
そのさなか、黒い十字架を掲げ赤い旗を振る六百人の一団が街を訪れる。
彼らは村の聖堂の中で、鞭打ちの苦行を行った。
その後、彼らの中に居た若い僧侶が、地獄や掟について語り、
「われわれのために十字架にかかって死んだイエスは居ない」
と言い残して一団は町から去っていった。
『フェンス夫人』
旅行でアヴィニヨンに滞在中のフェンス未亡人と息子と娘。
あるとき、フェンス未亡人はかつて愛した男と出会う。
やがて、男との再婚を決意したフェンス未亡人は、息子と娘にそれを伝えるが、二人は受け入れることができなかった。
結局、フェンス未亡人は二人と離れ、男と結婚し、スペインで生活することとなった。
五年間の幸福な生活の後、夫人は病に倒れ急速に衰弱してゆく。
死もさほど遠くないある日、夫人は子供たちに向けて「二人への愛、二人からの愛」を綴った手紙を書いた。
の六編。
旧き良き文学作品です。
1953年の初版を2020年に9刷めを発行したものです。
このため、旧漢字が多用されていたり、活字がやや潰れていたりしますが、
この本を読もうという人なら、さほど気にはならないでしょう。