紙の本
暗く美しい悪夢
2018/06/16 02:06
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投稿者:色鳥鳥 - この投稿者のレビュー一覧を見る
片腕が水晶となった水死体。
ガラスの目でこちらを見る鰐。
羽を広げたまま固まっている鳥たち。
『結晶世界』に描かれていた暗く美しいイメージは、一生私の記憶から消えることはないと思う。『結晶世界』は、『沈んだ世界』『燃える世界』とともに〈滅亡3部作〉と呼ばれている。遠からず地球上の生物は絶滅するのだろう、暗い雰囲気のなか、人々は普通に生活をしている。ただし誰もが〈過去〉や〈現在〉にかまけて迫る〈未来〉から目を逸らしているようにも思う。水晶化現象は死そのものではない。彼らはその状態のまま生きる。もしかしたら永遠に。……これは死か、生か?
バラードの書く主人公たちは、〈破滅〉や〈死〉に従容として向かうことがある。一見受動的なその行動は、大きすぎるエネルギーへの憧憬から生じたもので、実は能動的なのだ。バラードの描く狂気や悪夢は、美しくて寂しい。大きすぎるエネルギーというものはたぶん孤独なのだろう。
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投稿者:とむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ニューウェーヴSFを代表する屈指の名作。卑怯冒険ものの結構を批判的に取り入れつつ、SFならではの目くるめく世界を現出させている。
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バラードの「災害小説」シリーズ。
まさにバラードらしい、ちょっと変わったSF。
舞台となる町の暗く深い森では何もかもが水晶のように結晶化してしまう。生きているものかそうではないかの区別はなく、何もかも。結晶化していく森の美しい光景は、バラードの繊細で濃密な文章で繰り返し繰り返し語られていく。
この話にはその様を脅威と受け取る人と、その結晶の美しさに心奪われてしまう人の2種類の人間が登場します。健全な人間と、何か前向きに生きる目的を捨ててしまった不健全な人間の対比といったところでしょうか。結晶化していく森の美しい光景は繰り返し繰り返し語られ、森に魅せられ、出ていくことが出来なくなった彼らの気持ちもわからなくはありません。これは映像化したらかなり美しい作品になりそうな気がします。
ただ何だろう、本当にそれでいいんだろうか?人生を捨ててしまった彼らは何も解決しようしていません。迷いに迷った末に何もかも捨ててしまい、結晶化していくことに喜びを見つけてしまう。うーん、そういう思想もありなのかもしれないけど、ね。
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SFっちゅうより幻想文学?
ガジェットとしてはまあ面白いけど、ピンでそのネタだけでは苦しいなぁ…と。
まあ古い作品だし。
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すべてのものが結晶化しようとしている地域。謎に満ちた結晶化に怯えながら妻を捜す主人公。SFって謎が解かれることもなければ状況が好転することもないところがなんとも。。。。ホラーもそうだけど、そういう状況をそう言う物だって言って何も説明しないのはあまり好きじゃないです。。。
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バラードの破滅三部作の三作目。
「燃える世界」「沈んだ世界」はいまや現実になってきているが、
この作品は純粋に破滅幻想を楽しむことができる。
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世界が結晶化していく異変に際して,ヒトの存在を問う.SFというよりは純文学.内面が問題なのであって,外部の設定は象徴に過ぎない.
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らい病院に勤める医師のサンダーズは、愛人に会うためにモント・ロイアルに向かっていた。
近くの港までたどり着いてみると、その町は厳重な警戒に包まれていた。目的の町モント・ロイアルでは奇妙な現象が観測され、それも急速に周囲へ広がっているという。目的地まで向かう道はすでに軍隊に封鎖されていたが、サンダーズはなんとかして愛人に会おうと、調査団に同行することにした。
入り込んだ森は、奇妙な姿を見せていた。不定期に森の中心から「波」が押し寄せてくると、あらゆる生物・非生物が、きらきらと輝く水晶に取り込まれ、結晶化していく。結晶に包まれたものからは、生も死も、時間というものがすべて失われるようだった……
世界滅亡もののSF小説だけども、どっちかというと、SFというよりも幻想色が強いです。観念的というか……
物悲しく美しい世界の終末。全世界がどうしようもなく美しい結晶に飲み込まれていこうとしているのだけれども、結晶化を一度でも体験した人間たちは、その魅力にとりつかれ、恐怖するどころか、結晶の森での永遠を、何ものにも換えがたい喜びと認識するようになっていきます。
私の好みの問題ですけども、その現象が起きた理由にはもう少し、もっともらしい説明を書いてほしかった気がします。厳密な科学的考証とかはいらないんだけど、詳細が省略されすぎていてちょっと物足りなかったというか……
本の外側から眺める絵としては、とても美しいけれども、どうもうまく小説世界に入り込めず、登場人物にもいまいち共感できなかったです。主人公が不倫の挙句に二股をかけているあたりも、いまいち感情移入しづらい一因かも。二股は、二人の対照的な女性の対比ということで、物語の構成上はずせないテーマだったのかもしれないんですが、まあとりあえず女の敵だよね!
ということで、個人的な好みからするとやや不満足。しかし、好きな人は好きでしょうし、インパクトは強かったです。
もうじき死のうとしている病人たちが、永遠を求めて行列をなし、森に向かっていく後ろ姿が、なんとももの寂しくて印象的でした。
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やっぱ死の官能的な魅力ということになるのでしょうか。あまりにも。。。
やっぱ甘ったるいぬるま湯に生きる自分にとって、分かりやすい作品ではないことは確か。ただその世界を想像してみれば、その人物達に共感してみれば、全く違う感情のひだが存在することが感じられる。物語が、想像と創造が、今までいなかった感情の可能性を仄めかすのが、つまりはアートということではないでしょうか。
(でも三点じゃん)
やっぱ言葉で説明するというのは容易でないね。どこを語ろうとしても何か欠けてしまう。何度も解釈を重ねれば、その神性が薄れてしまう気がする。結局は何度も何度もトライ&エラーでしかないとしても。
僕は理解したいのでなく、語りたいのだよ。
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幻想的な森で繰り広げられる人間模様を通じて問いかけられる生と死、救済…。結晶化していく世界の美しくも残酷な滅びのイメージにただただ圧倒される。
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かつてのニューウェーブ志向、
思弁的小説志向に大きく舵を切った作品(?)。
オールラウンダーな読書家でなければ、
少し辛い傾向の作品、作者かもしれない。
自ら大きく動く事は無く、
存在する状況を受け入れ、描写する。
その観念的、内観的思考は、
SF を読むというより、
バラードを読むと表現しても良いのかも。
1970 年 第 1 回星雲賞海外長編賞受賞作品。
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本を読むリハビリにはちょっと敷居が高すぎたセレクトだったかも。
今がベストでなかったとしても、これ以上時が進んで欲しくない、ーと思うことは誰にでもあることだろう。
死を恐れて、(死に限りなく近く見える)永遠の停滞を望むというのは、矛盾した話だと思える。
だけどきっと私は永遠の停滞を望んでしまうだろうとも思う。
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SFのオールタイムベスト、と何かに書いてあったので図書館で借りました。個人的にはあまり好きな作品ではありませんでした。
登場人物相関図がわかりにくいこともありますが個人的に詳しく知りたい結晶化やそうなった後にどうなる?と言うお話よりも登場人物の不倫問題や人物ドラマに筋が多く割かれてしまっております。で、結局あれはなんなの?と言うところが言葉だけの説明に終わってしまい、不満です。彼がハンセン氏の医師であったこともあまり意味は無かった気がするし。大体、仕事を辞めてまで追いかけたい相手が居るのに到着地現地で彼女とよく似た美人とあってすぐ恋愛関係になれる主役に感情移入出来なかったというのが正直なところかもしれませんが。
と言う訳で私好みの話ではありませんでしたが結晶世界の誘惑に抗えない、その魅力に取りつかれた人たちが居ると言う件は嫌いではありませんでした。
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少し期待し過ぎていたせいか、SFというイメージを強く持っていたせいか、なかなか馴染むことができなかった。銀河鉄道の夜といった作品の風景描写は好きなんですが、この作品のそれは翻訳だからか、相性が悪いのか、読みづらかった。
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ニューウエーブも今の小説界からみれば、驚くものではない。だけど、この前によんだニューロマンサーがSFに衝撃を与えた様にこのバラードの一連の作品がサイエンス一辺倒だった、SF小説(小説強調)にインナースペース(宇宙ばかりではなく、人間内面)に目を向けるべきだと、主張したのだろうな。とにかく美しい描写、結晶化していく、森、水晶に覆われ、眠りにつく鰐や木々、それは死ではなく、世界との一体なのだろう。その世界で人は相変わらず、愛し憎しみ生きていく。SFファンもだけどそれ以外の人が感銘を受けると思う。訳が古いけど。