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著者自身による『薔薇の名前』の解説書。といっても著者に解説する気はない。開かれた文学である『薔薇の名前』の解釈は恣意的といってもよく、「お前がそう思うならそうなんだろ、お前の中ではな」と言わんばかり。エッセイとして類別するほうが正しく、著者自身の文学論および小説の執筆法に関する話題が中心として扱われている。彼が作品を書いた理由は「そうしたかったから」であり、「一人の修道士を毒殺したかった」からである。まず書きたい場面があり、そのために装飾を重ねていくという手法を彼は取った。彼曰く、とあるシーンは「テクストを引用し継ぎ接ぎし、後からそれに磨きをかけ、継ぎ目を見えなくするためにうわぐすりをぬった」そうだ。作家を目指す人々にとって、一つの参考になるのではないだろうか。
「ポストモダンは年代ではなくて一つの行動様式」という彼の主張は中々的を得ている気がする。
20150518追記
彼の言う「開かれた」テクストの意味が理解できた気がする。それはテクストに様々な意味を含有させることで、それらの内容がテクストに結合されていくことを主張しているのではないか。その結合を読者自身が辿り続けることで、テクストの担う領域を無限に広げていく。その意識こそが読者にとって重要で、このような精神状態に向かわせるエネルギーを持つ文章こそ「開かれた」テクストなのだと。