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紙の本
中年男の意地とあきらめ
2003/03/23 04:24
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投稿者:まんでりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
テレビ関係の仕事を手がけていたという著者のサイモン・ブレットは、おそらくその職業生活の中でも実際に目にしてきたのであろう売れない俳優たちの中からシロウト探偵チャールズ・パリスを生み出した。
英国式の現実的平衡感覚や皮肉、ユーモアやペーソスが随所にちりばめられていて読み手を飽きさせないのは、近頃人気のD・W・ウィングフィールドのフロスト警部シリーズと同様と言ってよいだろう。
たとえばこんな具合である。
「抽象的な正義など、ほとんど意味のないことだ」(220ページ)
と言って、結局、犯罪を見逃してやる。希望にも絶望にも左右されなくなった中年の大人の分別とあきらめが感じられる。
「信仰を育てるためには知識を制限しなければならないのよ」(184ページ)
「情報公開」さえすれば衆生は救済されるであろうか。そうではないことを知りつくしているからこそさりげなくこういうセリフが顔を出す。宗教についての重厚な伝統の裏打ちと深層が語らせているのだ。
「知らない人間たちの間に入っていくのも、夫婦ならずっと心強い。結婚というものには語られねばならないことがもっとある。いいシステムだ。」(117ページ)
別居中の夫(チャールズ)の想いだけに説得力がある。仲たがいしていても唯一気が許せる、制度によって保障された男女関係については再考の余地がありそうだ。
「キャンペーンでは寄付の金額ではなく、寄付の事実を強調すればいいんですよ」(106ページ)
ほんとにね。新規開店のラーメン・チェーン店がオープン記念に5円ラーメンという折り込みチラシを出した。売り上げはすべて寄付すると書いてあった。1000人の客が入ってもしめて5000円也だ。一杯5円で食べられるという客の後ろめたさも帳消しされるうまいキャンペーンだ。 自分の懐に優しく、食べてもおいしく、慈善活動に協力しているという満足感まで一緒に得られるというわけ。
「地獄への道はプラスチチックで敷きつめられているのだ。彼はカードを取り出し、再び借金地獄へと深く深くみを沈めた。」(102ページ)
ダンテの『神曲』で敷きつめられていたのは「善意」だったけど、今の時代、善意はクレジット・カードというプラスチックにとって代わられてしまったということ。こんなふうにちょっぴり古典を引用して、お堅い知識人までくすぐってみせようというのだろうか。
チャールズは軽口をたたいてはヒンシュクをかう詮索好きでアル中ぎみのお調子者。どこにでもいそうなおじさんだ。
金もないのに散財を強いられたり、余計なことに鼻を突っ込んでは生命の危機にまでさらされたり、妻とのヨリを戻す機会を作っておきながら自分からそれを台無しにしてしまう。
一言でいえば、すっとこどっこいである。
かっこいいところも颯爽としたところもない、ただの意固地な中年親父のくせして主人公なのである。
だから袖についた油のシミのように離れがたいのかもしれない。
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