投稿元:
レビューを見る
一人の英雄も事件も出てこない「世界史」。イースター島の教訓から人類が環境や生態に与え続けてきた破壊の数々、そして「豊かさ」の限界まで。圧巻。
経済や政治ではなく、環境という視点を通して「世界史」にアプローチするという、これまでの人類史の盲点を鋭くついた一冊。「銃・病原菌・鉄」よりはるかにいい。
投稿元:
レビューを見る
1994年(原本1991年)刊。著者は英スウォンジー大学名誉研究員。
内容に既視感があるのは、ブライアン・フェイガンやジャレド・ダイヤモンドの著作を既読済みだからだろう(とはいえ本書の刊行の方が古い)。
イースター島や中南米アステカ・インカ文明、あるいは古代メソポタミア文明の崩壊、さらにかつてのギリシアやシリアは森林豊富な地域であった指摘などは、彼の書の内容にかなり被る。森林の重要性や灌漑農業の負の面も同様だ。
ただし、本上巻では①貿易・交易関係の指摘。②人為的収奪の一例としての植民地支配(欧米)の内実。③環境破壊という現状=環境保全に意を払わない人類を生み出した思想(例えば、自然界での人間の独自性・優越性の強調という西洋的人間観)、あるいは経済学の限界(古典派は勿論、マル経にも批判的)に言及があって、多少視点が違う印象もある。
ジャガイモ・トウモロコシやトマトなど種々の交易品の伝播の世界史的意義は勿論、イスラム交易圏、すなわち東南アジアから西南アジア・地中海東部へのサトウキビ交易の意義(砂糖生産の拡大)については注目を要するか。
投稿元:
レビューを見る
環境の過去を探り、環境が人間の歴史をどの程度、規定してきたかを探る本。上巻と下巻に分かれ、それぞれにかなりのボリューム。
冒頭のイースター文明の滅亡の経緯は、他の文化人類史の本でもよく語られている内容。その後の章で述べられる歴史における、一つの典型的なエピソードとして冒頭で取り上げられている。
その後は人類史と、人類が環境に与え続けてきた負荷について詳説される。4章では、農業の導入により狩猟採集生活への後戻りができなくなり、必然的に自然に与える圧力が高くなったことが書かれる。
続く章では、貧困と栄養不足から飢餓が起き、人口が農業生産に見合う水準まで低下することで農業が安定、その後しばらくして農業が不作になると貧困と飢餓がまたやってくる、というサイクルで世界が回っていたと述べられる。人類は長く、食べ物が確保できるかどうかに左右され、そのために人口が急増することはなかったことが分かる。
8章はやや異質で、ヨーロッパ文化がなぜ、自然を圧倒し、支配することに疑問を抱かなかったについて、宗教的側面から語られる。一神教の世界では自然は人間が支配する対象であるという考えをもたらしたこと、進化論は人間が自然界の最上段に立つ「適者」であるという理論に利用されたことが書かれている。それに対し、中国の道教やインド思想などの東洋思想は人間と自然界の調査を重視したため、過度な自然破壊や支配を行わなかったとも。この理屈はそれなりに筋が通り、納得できる。
後半は、その西洋世界が第三世界を成立させ、拡張した植民地で土地を蹂躙、不毛化させた歴史が語られる。
先進工業国の発展と安定は、第三世界での搾取や貧困、苦痛の上に成り立っているという理論は、正しいのだがそれだけを読んでしまうと、日本を含む先進国の自虐で終わってしまう。過去の清算として何をすべきかと、未来に向けて何をすべきかは別であると個人的には思う。この本は歴史と環境について解説しているものであり、今の時代において何をすべきかという思想や言論を呈しているものではないが、本書にあるような史実を知ってしまうと、自分なりの答えを探りたくなってくる。
投稿元:
レビューを見る
ずっと前から読みたい読みたいと思っていた本。やっと手に入れることができて,じっくり読んでいます。
まだ上巻を読んだだけだけれども,自然と人間との付き合い方を有史前まで遡って解説してくれていて,興味深い。
もともと,人間は自然の一部であり,その自然から食料を貰うこともあれば,おそらく自然の餌食になったことも多かったはず。
それが,技術を憶え,ノーミソが大きくなるに従って,「自然は人間のためにある」という思い込みがしっかり定着するようになった。それはキリスト教などの宗教が出てきても同じ。いわゆる人間至上主義の中で,自然はどんどん本来の姿を失っていく。
科学が発達しても,たとえば適者生存説を人類の都合のいいように解釈して,人間は偉いんだからトップだから強いんだから,他の生きものを殺しまくってもいいのである,というようなことになっていく。その結果,数え切れないくらいの生きものたちが絶滅していった。
まだ重化学工業も発達していなかった頃の時代の話を読んだだけなのに,すでに人間は,自然を壊し続けてきていたんだなと思った。
さて,下巻では,その人間たちが反省すべき話題もあるハズなのだが…。