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1980年代、シベリアにベースキャンプを作った資源探査エンジニア
たちは野生動物しか住まぬと思われた針葉樹林帯の深い森で5人
家族と出会う。
17世紀、ロシア正教の分裂の際に自分たちの信仰を守る為、
奥地へと逃げ延びて来た一族の末裔だった。
著者が彼らの住まう地を訪れた時には、5人のうち3人が亡く
なっていた。迎えてくれたのは老齢の父と末娘のアガーフィア
のふたり。
ロシア革命も、第二次世界大戦さえ知らず、森の奥深くで頑な
に信仰を守りながら暮らす家族を描いたノンフィクションである。
著者たちとの出会いからの約10年間が克明に綴られている
だけではなく、何故、アガーフィアの家族が人知れず森の奥
深くで暮らすようになったのか。その時代背景までが、詳細に
記されている。
新聞記事になったことから、同じ信仰を持つ一族が見つかり、
父の反対を押し切ってアガーフィアは親戚の住む村への旅を
決行する。
アガーフィアたちの暮らしをしった読者から、ささやかな贈り物や
現金が送られて来る。
そして父が亡くなると、一緒に暮らそうと言う親戚や、もっと人のいる
地域に近い所へ小屋を建てそこで暮らせばいいというエンジニアたち
の申し出を断り、父と暮らした森の小屋での生活を続ける。
「本当の信仰は森の中にあるのよ」。
父を亡くし、ひとりきりになったアガーフィアを見守る人々が大勢いる。
始めはおずおずと「俗世の人たち」と接したアガーフィアも、時が経つ
ごとに彼らの訪問を心待ちにし、生活の報告のような手紙を送る。
本書が出版され、既に10年以上が経過する。アガーフィアは、今も
ひとり深い森で、自然が与えてくれる恵みに囲まれて暮らしている
のだろうか。
存命していれば、既に50代だろうか。その後のアガーフィアの消息が
気に掛る。