これぞパスティーシュの名人のなせる業!
2001/02/25 20:12
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投稿者:ポンさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
パスティーシュの大家である清水義範が、19世紀と20世紀の世界文学を容赦なくパロディー化した清水版文学全集。例えば、『ファウスト』。メフィストフェレスは、なんと名古屋弁で、ファウストを誘惑してしまうのだ。不思議なことに違和感がまったくない。翻訳は必ずしも標準語でやることもないのではないか、と巷に氾濫する真面目な翻訳の外国文学を横目に見ながら、切に思う。
他に、『三銃士』や『白鯨』、『罪と罰』、『ボヴァリー夫人』『変身』、『異邦人』などのパロディーが収録されている。清水義範曰く、「原典を読んでいない人にもとりあえず面白く、読んでいる人にはそれなりに面白く書いたつもりである。」私も、いくつかの作品の原典を読んだことはない読者の一人であったが、十分楽しいパロディー集だった。また、文学の楽しみ方としては反則かもしれないけれど、清水のパロディーを読んでから、原典に立ち返るというのもやってみる価値がある。それはそれで、また一味違った面白さがあるのではないだろうか。
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世界文学パロディ十七連発後半は、ちょっと文学読む人なら一度は触れているに違いない作品ばかりで、第I集以上に楽しめるのではないかと思います。
出来がいいのはそうですね、「ボヴァリー夫人」、「白鯨」、「罪と罰」辺りでしょうか。「ボヴァリー夫人」はアイディアは凡庸というか、この題材を与えられれば誰でも考え付くよな、という作品なんですが、テンションの高さが素晴らしい。リズムがあります。あの有名な言葉をいかに笑いに昇華するか、が一番注目されるところですが、これも完璧。
ただ、なんというか、第I集に比べると、アイディアの奇抜さで笑わせるようなものは減って、かなりオーソドックスなパロディ集になっていうるかなあ、という印象です。「白鯨」も「罪と罰」もそうなのですが、ええ、そんなことやっちゃうの、という感じが全然しない。そういう意味では、語るべきところはあまり少なく、第I集と比べて、技巧の比重が少ない、「センスの作品集」みたいになっているところは、否定しがたい。もちろんそれ自体は否定的な内容をまったく含みませんが。傾向は明らかに、変わっている。
というのは作品そのものの内容が有名で、しかも多くのパロディに原作が既読であることを期待できるゆえだと思うのですけどね。
ところが最後の最後、「二十世紀の文学」でその構造を逆手に取ったような大爆発が起こる。あらゆる作品をぐちゃぐちゃに混ぜてしまっているこの作品が全作品中ベストの位置を占めるのは疑いようがないでしょう。分析するのも野暮ったいぐらい、リズムに乗ったパスティーシュ(文体模倣)が炸裂する。そのノリだけで気持ちいい。なんていうのかな、結局パロディっていうのも、模倣なわけだから、基本的にはやっちゃいけないことをやるわけで、やっちゃいけないことをやるのに手際が悪かったら、「いけなさ」がテンションをあげてくれないでしょう。むしろ「何やってんだよ」ってそわそわしてきて、最後には幻滅してしまう。「いけない」ことをやるにはテンションもエネルギーも必要で、それを文章でやるってことはそのテンションもエネルギーも読者に伝播させるように書かなきゃいけない。そのはっちゃけ具合が、ここでは絶妙であって、こんだけ馬鹿やられたらどんだけ頭固くても根負けするしかないでしょうという、そういう感じを抱かせるわけで、その一点をもって名作だなあ、と思うわけです。はい。
あんまり知的にやんなくてもここまでやれば知的に見えちゃう、みたいなところもあったりして。
とても楽しい作品集でした。次は日本文学全集を読むぞ。
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「モルグ街の殺人」...某文庫から出てゐた翻訳を思ひだします。その翻訳はまことに大時代的な言辞を弄し、原文に忠実すぎて何を言つてゐるのか分かりにくく、高名な翻訳家から「欠陥翻訳」であると槍玉に挙がつてゐました。
清水氏の「モルグ街の殺人」は、そのまどろこしさまで感じられる作品になつてゐます。偶然かも知れませんが。
「三銃士」の樽谷安(たるたにあん)の物語も面白い。樽谷安の父は、作家を目指す息子に向つて訓示を与へます。
「当節、作家は実入りのよい職業となり、その昔の貧乏文士はもはや伝説の存在、有名人よとおだてられ、望みとあればテレビに出まくり、小説に行きづまればエッセイと講演で何不自由なく暮してゆけるご身分なのだよ...」
現在の作家と呼ばれる人たちを風刺してゐますが、思はずさうさうと頷き、具体的に二人三人顔も浮かんできます。小説家は小説を書くものといふ清水氏ならではの記述と申せませう。
「二十世紀の文学」といふ大いに壮大なタイトルの作品があります。カフカやサルトル、カミュや魯迅などからジョイスにいたるまで、文字通り二十世紀の世界文学大会であります。十分面白いけれども、やはり原典を知つてゐれば尚楽しめるでありませう。
ほかに「ファウスト」「嵐が丘」「白鯨」「ボヴァリー夫人」「罪と罰」を収む。
http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-241.html
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東北弁のマルガレーテ、名古屋弁のメフィストフェレス、大阪弁の魔女が口角泡を飛ばす「ファウスト」。有名文士にケンカ議論をふっかける文壇の風雲児・樽谷安。ペンと恋と名誉と栄華を求める青年の物語「三銃士」。地方名士の開業医夫人・Bさんの自殺未遂事件を巡るスキャンダルの真相「ボヴァリー夫人」他。文学なんか怖くない。おもしろくっても大丈夫。二十世紀最大、最高の文学全集。
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清水義範は最初に読んだ『国語問題必勝法』『蕎麦ときしめん』が面白過ぎて期待値が高目なので、毎回ほぼがっかりする。しかし未だに『永遠のジャック&ベティ』ネタが世の中で通用してるんだから凄い作家だよな。
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解説:東海林さだお
ファウスト◆モルグ街の殺人◆三銃士◆嵐が丘◆白鯨◆ボヴァリー夫人◆罪と罰◆ニ十世紀の文学