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『弁証法の系譜』(未来社、1968年増補版)のほか、著者のプラグマティズム研究にかんする論文などが収録されています。
「私の方法 手作りのカテゴリー表」のなかで、著者はカントのカテゴリー論への関心から哲学の世界に入り、パースの論理学についての研究へと進んでいったと語っています。『弁証法の系譜』は、そうした著者の初期の研究が実を結んだもので、パースとデューイを中心にしてプラグマティズムの思想の特徴を解き明かすとともに、それらが現代の哲学において占める位置についても考察をおこなっています。
著者は、当初論理学の研究からスタートしたパースが、しだいにヘーゲルの弁証法に共感をいだくようになり、それと軌を一にして早くからヘーゲル哲学に関心をもっていたデューイが、それまで軽蔑していた形式論理学を見なおすようになったことに注意を向けます。そして、プラグマティズムとヘーゲルの弁証法には、表層的な相違にもかかわらず、深いレヴェルでつながりを見いだせるのではないかという見通しが示されています。
同時に著者は、エンゲルスやレーニン、毛沢東らによる論理学についての言及を検討し、マルクス主義がいまだその哲学的立場にもとづく独自の論理学を明らかにするに至っていないと指摘します。そのうえで、ヘーゲルの弁証法論理学とマルクスの『資本論』第1巻とのあいだに照応関係があることを明らかにしています。
こうした議論を通して著者は、アブダクションからディダクションを経てインダクションへと進むパースの論理学についての思索が、われわれの認識活動における思想と世界との実践的交渉のありようを解明するものだったと主張します。同時に、社会の発展と社会認識の発展の相関にもとづくヘーゲルおよびマルクスの弁証法とパースの思想との統合の可能性を展望しています。
宗教や国家、日本文化論といった多彩な分野にまたがる思索を展開した著者ですが、本巻所収の諸論考には、著者の思索の出発点にある哲学的関心が端的に示されているように感じました。