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1993年のベストセラー.読みやすいし,読ませる.
これだけ全体にスピードがあると,作家が最もやりたかったであろう贈与を本質とする日本文化論の部分はちょっと読むのが面倒になってしまう.
頭のきれる著者によって用意周到に書かれた小説だという事はよくわかるが,読み終わった後に残るものは少なく,娯楽・大衆小説の後味と同じ.
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「女ざかり」丸谷才一さん。1993年。
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丸谷才一さんなので、大抵面白いのです。
丸谷さんの小説は、好きになったらもう、全部好き。噺家の語り口みたいなものなので。
1993年ですから、まだワープロの時代。携帯電話はありません。
舞台は、朝日新聞社を彷彿とさせる、都内の大新聞社。の、論説委員室。つまり、新聞の「社説」とか「コラム」を書く部署です。
主人公は南弓子。40代後半?くらいなんでしょうか。「女ざかり」。
バツイチのシングルマザー、若い大学生の娘がいます。そして、周囲には中年から老年の、社会的地位のある男たちが群がっている、モテモテ女流記者。
そんな弓子さんが、論説委員となり、健筆をふるいます。
論説委員の中でも、弓子さんに首ったけになる記者もいます。
社会的地位のある大人の恋のさや当て、片想い、口説きの手管。
ところが、弓子さんには人目忍んで長い歳月になる、妻子ある恋人さんがいて...。
さらに、弓子さんが書いた社説が政府の逆鱗に触れて、左遷の危機に...。
そんなドラマがありながら、物語の語り口は悠々自適の余裕を含んで軽やかに進みます。
軽快なオールド・ジャズが流れるウディ・アレンの映画のように、人生の色気、皮肉と偶然を醸し出しながら。
最終的には、血縁のコネから時の総理大臣に面会することで、(というか、偶然に総理の奥さんと出会ったことで)すべての危機は水に流れて目出度し目出度し。
ついでに、娘の恋愛も進展があってめでたし目出度し。
肩の凝らない娯楽。「へえ~」と「ふむふむ」満載の洒脱。逸話と脱線の快楽。
今にして90年代、バブル崩壊直前のふわふわした風俗を、振り返っては納得させる読み応え。
...って、正直手放し絶賛なのですが、実は再読。それも、初読時は新刊で読んだはずなので、僕は21歳の大学生だったはず。
うーん。
正直、全くこの本の滋味豊かな豊饒さが、判ってなかったなあ...と、振り返って自分の背伸びに苦笑してしまいました。
大人になるのも悪くないものです。
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いや〜〜、本当に久しぶりの丸谷才一です。
あひ変わらずの旧仮名遣ひの文章で、自立的な女性の話を描く、「たった一人の反乱」を思ひ起こさせる小説です。
この時代に旧仮名遣いといふだけで、ガチガチにまぢめな小説とおもはれがちですが、しばしば爆笑といふか、スラップスティック的なユーモア感覚を見せるのがこの人の作品の特徴です。
登場人物もかなり変わってゐます。文章の書けない新聞記者、あっけからんとした元女優の叔母、助平な書道家、変な理屈を捏ねる哲学者。
なかなか楽しめる作品でした。(しかし旧仮名遣いで書くのはしんどい)
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※弓子のコラムが何故水子供養批判になるのかよくわからない。住んでる世界が小説と違いすぎてるからか、いまひとつリアリティが感じられなかった。
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ぼくは本作の美点をいくつも挙げることが出来ます。
まず何と言っても、内容。
舞台となる大手新聞社は、政府の土地を払い下げてもらい、そこへ新社屋を建てる構想を持っています。
ところがこの構想が頓挫してしまいます。
原因を作ったのは、主人公の美人論説委員・南弓子。
弓子の書いたコラムが政府関係者の逆鱗に触れてしまったのです。
社の上層部は事なきを得ようと、弓子を事業局へと左遷させるべく動きます。
ここから物語が大きく展開します。
弓子は同僚や友人・知人、恋人と伝手を頼り、あの手この手で事態を解決しようと画策します。
結果、どうなるかは言わぬが花でしょう。
ただ、ストーリーは実に起伏に富んで面白い。
優れたエンターテインメント作品と言えましょう。
最後まで読んで、この作品のテーマ(の少なくとも1つ)が「贈与」なのだと感じた次第。
ギブ&テイク。
政府と新聞社との間の土地のやり取りしかり、書き手としても優秀な弓子と、記事のからきし書けない論説委員・浦野の関係しかり、それから弓子と不倫関係にある恋人の豊崎の関係も「贈与」が介在しています。
そして、この関係が崩れた時、必ず「修羅場」が訪れているのです。
何とまあ凝った作りなのでしょう。
それだけじゃありません。
丸谷の博識ぶりが随所に発揮されていて読ませます。
特に哲学方面の知識はすごいと舌を巻くレベル。
しかも丸谷の場合、博識ぶりを披歴しても鼻につくのは稀です。
憲法改正ではなく、「憲法廃止」のくだりも印象に残りました。
それからユーモアね。
弓子が首相を問い詰める場面は愉快で何度も吹き出しました。
実作者としては、油断すると通俗的になりそうな設定なのに、文学的な強度を一貫して保っているのは、さすが丸谷と思いました。
痴話喧嘩も丸谷が書けば、高尚な文学になるんだから、もう逆立ちしたって敵いません。
ただただ脱帽。