紙の本
山田風太郎の描く「金瓶梅」の世界
2001/05/14 20:25
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投稿者:真 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国の奇書「金瓶梅」を題材にした連作短編集。ミステリーとして見ると弱い部分もあるが、犯人の設定、動機の意外さなどは、他に例を見ない。これだけ存在感のある犯人も珍しいと思う。
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ミステリかつエンタメ作品として完成されていて、山田風太郎の作品群の中でも傑作と評価が高いのも納得。
金瓶梅ならではの世界観の中で繰り広げられる、トリック、動機、エロスと、読者を飽きさせることなくぐいぐい読ませる作風は流石です。
クライマックスでは、大破局へ向けての劇的な展開にハラハラ、ドキドキしっぱなしでページをめくる手が止められません。
そして最後に「愛」が残るのです!
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連作短編。なのに○○が全部同じという珍品。切断、入れ替り、密室などトリックのてんこ盛り。作者の奇想が溢れ、読み所かなり多し。すばらしい!
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「金瓶梅」をモチーフとした連作ミステリ。原典は知らないのですが、それでも充分に楽しめました。
これ、ミステリとしては型破りですね。第一話ではそれなりに驚くのだけれど。なんとその後はワンパターンな展開ばかり。犯人と動機がずっと一貫しちゃってます。ええ、そんなのってあり? しかもこの動機がなんというか、恐ろしいです。そこまでやらんでも~。
とはいえ、それぞれの事件で用いられるトリックはなかなかに凄くて。中には馬鹿らしいものもあるけど、いやその馬鹿らしさが逆に素晴らしいぞ。思いもよりませんこんな手口。
お気に入りは「変化牡丹」。思い切ったトリックだなあ。それと「西門家の謝肉祭」も凄い。たぶんこれは……そういうことなんでしょうね。
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アニメ脚本家のサイトで紹介されていて読んでみた。山風の忍術物幕末物はいくつか読んだことはあったがさすがだわ。中国奇書金瓶梅の設定をつかったミステリ小説。各章がシリーズもののお手本のような落ちのつけ方は舌を巻く。いろいろ語りたいがネタバレになるので書けないのが悔しすぎる。先が読めなかった。そして奇想と見事な伏線の張り方と回収。最後には涙してしまった。傑作。
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透明なガラスポットの中に、種々の色彩がゆらゆらと揺れている。彼女が優雅な所作で取り出したのは、よく使うマグカップではなく白い花びらのように薄い磁器の湯呑だった。
注がれる液体の香りは紅茶に似ていたが、紅茶よりずっと色味の薄い金色がかった茶色であり、湯呑の隣に置かれた皿に乗っているのは、無邪気な華やかさに溢れた中華菓子だった。花や草木を象った月餅菓子は、気取った和菓子のような繊細さはない代わりに、親しみやすい遊び心がこもっているとそんな風に思う。
「頂いても?」
「どうぞ?」
にやり、と口の端を上げる人の悪い笑みを浮かべながら、彼女はロウテーブルの茶菓を指し示す。向かい側には俺の分よりも多い茶菓が置かれていて少しばかり苦笑したが、そのままソファに腰を下ろしてありがたく頂戴することにする。
自分の分の茶を注ぐ彼女を見ながら口に運ぶと、芳醇な香りと甘さが口の中に広がった。飲んだことの無かった味だが、上手い。
「味がダージリンに似てますね」
「君は舌がいいね。中国茶ではあるけれど、製法はダージリンに近いんだよ。どちらも味わい深くて私は好きなんだけれど」
にこ、と何処か人の悪い笑顔を浮かべながら、向かいに座る女性、都子もまた金色の中国茶を口に運ぶ。
「感謝したまえ、なかなかに値が張る代物だ。東方美人、と言う」
「へえ。そりゃまた変わった名前のお茶ですね」
「ふふ、そうかい?別名では五色茶とも言う。ガラスポットで淹れると実に美しいだろう」
確かに、とテーブルの上に乗ったままのガラスポットを見る。褐色・白・紅・黄・緑、と実に鮮やかな色の茶葉だ。
「東方美人と言う名といい、五色茶という名といい、中国茶であるという事といい、今日紹介する書籍には実にぴったりのお茶だと思ってね。わざわざ取り寄せたんだよ」
「…はあ」
そう言って都子は、彼の前に一冊の文庫本を取り出した。表紙には目を伏せる女性と、そして後ろ姿を見せる別の女性。中国の民族衣装らしいゆったりとした服をまとった二人の女性は、どこか艶めかしさとおぞましさを感じさせる画風であった。
「…『妖異 金瓶梅』…。山田風太郎作、ですか。名前だけは知っていますけど、作品は読んだことないんですよね、山田風太郎は」
健太が呼び捨てると、少しムッとした表情で都子はテーブルを指先で叩いた。剣のあるノック音が響くが、そこはあえて無視することにする。
「山田風太郎『先生』だ、敬意を表し給え。…彼の作品は実に素晴らしいよ。官能と残虐さとが遺憾なく発揮されているにもかかわらず、どこまでも引き込まれる筆致。おぞましくも美しい男女の愛。元々金瓶梅というのは古代中国の文学作品なのだがね、それを叩き台として全く別の作品――――…しかも、舞台が古代中国にもかかわらず推理小説という異色さだ。少しばかり荒唐無稽な部分もあるが、それすら飛び越えてとびきり美しい世界観を作り上げている」
「はあ」
立板に水と言った調子の言葉の羅列に平行するが、それだけ夢中になる作品ということだろう。はい、と渡された���れを受け取ると、表紙をめくって目次に目を通した。
「連作短編と言う調子だから、読みやすいと思うね。尤も、先ほどのいったように随分官能的、残虐的な要素があるから――――…」
「平たく言えばエロくてグロいってことですか」
「そういう事だね。何しろこの中に出てくる主役の一人、西門慶と言う男がだね、八人の妻と愛人と一緒に暮らしているという話だから」
「はあ?」
「事実だよ。その上愛人は一話ごとに一人か二人増える」
「意味がわかりません」
「読めばわかるさ」
二杯目の茶を注ぎながら、都子はにっこりと笑った。やはりどこか人の悪い、人を食ったような笑顔だ」
「元々この金瓶梅と言うのは、話に出てくる主要な女性キャラクターの名前一時ずつから来ているんだ。西門慶の寵愛を最も受ける期待の淫婦・金蓮。西門慶の子を宿す・李瓶児。金蓮の忠実な小間使いであり、西門慶の愛人でもある春梅。そしてこれはこの物語の最も重要な言葉を意味する物であってね。金は文字通り金、瓶は酒、つまり酒食、梅は色、つまりセックスについて。
この三つで構成されているといっても過言じゃない」
金茶色の液体が満たされた白磁を持ち上げ、健太は持っている文庫に捧げるような仕草をしながら彼女は言った。
「実におぞましい俗物の物語であり、同時に純粋すぎるような愛情で満たされた物語でもある。極彩色で描かれたような、原色が似合う話だと思うよ」
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再読。
やはり素晴らしい。連作短編ミステリを書かせては並ぶもののない山田風太郎ですが、本作は特に傑出しています。
何といっても舞台設定がいい。豪商にして稀代の好色漢たる西門慶と、その妻妾たちが住まう館。そして館で起こる不可解な事件の数々。
この特異な舞台設定が、事件に潜む異様ともいえる動機に強い説得力を与えています。舞台と論理が融合した、これぞホワイダニットと申せましょう。
よく知られているように金瓶梅は水滸伝と深い関係を持ちます。本書の後半からは水滸伝のとある好漢の影がちらつくようになるのですが、それと同時に一気にクライマックスになだれ込む手並みは見事の一言。奇才・山田風太郎の構成力が光ります。
探偵役たる応伯爵も魅力的ですが、何といっても西門慶の第五夫人・潘金蓮の造形が圧巻。聖女にして悪女たる彼女の堂々たる姿は読者をも魅惑し打ちのめすこと請け合いです。
冒頭から末期まで隙の無い傑作。未読の方は是非ご一読を。
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連作短編。『水滸伝』や『金瓶梅』を知っていれば一層面白く読めるんだろうな。一言でいえば破天荒ミステリーかなぁ('ε'*)エログロ描写が苦手な人にはオススメできない。ラストに向けての崩壊っぷりに頭痛が(笑)東西ミステリーベスト100、2012年度30位。さ、三十位ぃ( ̄▽ ̄;)
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最初の話で期待大かと思ったが、中だるみで内容もうんざり気味、終盤ど~んとつきぬけてとんでもラスト。妖怪の方がまだ可愛げがあるわ。