紙の本
79年に刊行された船戸の小説家デビュー作
2002/03/20 00:28
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投稿者:杉江松恋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
非合法員とは情報組織に雇われたプロの暗殺者のことだ。メキシコ政府に雇われた日本人イリーガル神代恒彦は、ユカタン半島に潜む反体制運動の指導者を始末した。だが、その直後、仲間の1人に報酬を全額持ち逃げされ、しかも後を追おうとして向かった空港では、正体不明の敵からの狙撃が待っていたのだ。常に追う側にいた非合法員が追われる側に逆転した!敵の狙いは何か?そして、神代は生き残ることができるのか……?
79年に刊行された船戸の小説家デビュー作であり、この小説が80年代の冒険小説ブームを呼んだといっても過言ではない。国際政治の中で犬死させられていく者たちの群像を描く船戸小説の定型は、ここで既に完成している。本書は理論書「叛アメリカ史」(ちくま文庫)の小説による実践というべき作品だが、その後のメキシコについてはルポルタージュ「国家と犯罪」(小学館)と、小説「午後の行商人」(講談社)で書き継がれている。
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【ネタバレあり】
船戸作品初読の「山猫の夏」がとても良かったので、船戸作品を読みたいと思い手にとった作品です。偶然にも船戸与一のデビュー作だったようで。
全体的な印象としては、次から次によく人が死ぬな~という印象を持ちました。それと、ストーリー自体が散漫な感じもしました。特に、次から次に登場してくる人物と主人公との絡み合いが複雑に絡みあっていくような展開を期待させつつ、意外にも淡白な関係で終わってしまうところが少々残念でした。ベアランアーしかり、桧垣真人しかり、もうちょっと絡みがあっても良かったかなと思いました。
それと、こういう裏社会に生きるものを描いた作品としては高村薫「リヴィエラを撃て」が私の中では最高峰であり、どうしても比べてしまいます。勿論、作品的には異なるジャンルになるでしょうが、比べてしまうのです。その点からも、ちょっと見劣りは否めませんでした。
最後に、やはり、作品への思い入れが深まるか否かは主人公への感情移入の程度によると思います。その点でも今回はいまいちでした。
船戸与一作品:2冊目読破。
読書期間:2009.4.24~5.13
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【選んだ理由】
好きな作家なので
【感想】
一気に読んでしまった。お風呂での読書には最適だが、のぼせてしまうきらいがある。
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冒険小説の雄、船戸与一のデビュー作。
こういうのを読んでしまうと、うまい人はやっぱり最初から面白いもの書くんだなあとしみじみ痛感してしまう。
まあそれはともかく。
現代の国際政治の裏側を舞台とし、そこに生きる人々を描き続けている船戸与一。必然的に登場人物は一癖も二癖もある人物ばかり。また、他ではなかなか描かれない、中南米や中央アジア、東南アジアなどの国の人を登場人物としてみることができるのが、船戸作品の特徴か。
それは、現代政治がそれら辺境地域を欧米諸国(時には日本も)しいたげ、搾取し、代理戦争を行うことで否応無しに進んできたからであろう。
だからなのか、作者の目は常に虐げられてきた人たちへ注がれている。
この作品でもそうだ。
主人公の神代恒彦は、日本人でありながらCIAの非合法員(イリーガル)として非合法な仕事を生業としている男だ。今回の仕事に選んだパートナーは、ナチの人体実験の落とし子であるドイツ人と、ベトナム戦争の英雄と呼ばれていたベトナム人。
いずれも、権力に翻弄されてきた男たちだ。
彼らの仕事は、メキシコの革命運動の指導者を暗殺すること。
三人はその仕事を無事に終えるが、ベトナム人に金を持ち逃げされてしまう。さらに、神代とドイツ人を誰かが狙撃してくる。
狙撃してきたのは、誰が、なんの目的でなのか。ベトナム人は何故金を持ち逃げしたのか。
ふたりはベトナム人・グエンを追ってカリフォルニアへ向かう――。
圧倒的なスピード感と、むせ返るような熱気が最初から最後まで、物語を支配している。
アメリカを舞台に、アメリカに支配されてきた男、女が繰り広げる戦いの物語となっている。
当時の国際情勢がわからなくても読める、ある種悲しい物語。
いかにも船戸与一のデビュー作といった感のある、船戸与一エッセンスが凝縮された作品だ。