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紙の本
久々の学園ミステリはやはり良かった
2020/01/28 23:23
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投稿者:テトラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
てっきり学園青春ミステリとは縁を切ったと思っていた東野圭吾氏が久々に学生、しかも高校生を主人公にして書いたミステリが本書。しかもデビュー当時の瑞々しさは失わずに、寧ろ豊かな経験を重ねた分、人物像にさらに厚みが増し、そしてプロットの切れ味が増しているという、東野氏のこの手の作品が好きな人にはまさに堪らない一品となっている。
何しろ主人公の西原荘一はじめ、彼を取り巻く高校生たちがなんとも瑞々しい。親や先生の云うことを聞く、聞き分けのいい生徒ではなく、彼らはすでに自分達の世界を持ち、恋にスポーツに受験に明け暮れているのだ。
この歳になると、高校時代とか大学時代という、世の中のしがらみに囚われずに一所懸命何かに取り組めた頃を懐かしむ傾向に私はあるようだ。
技巧派である東野が本書で主人公西原の一人称叙述を用いたことで学校で起こる恋人の交通事故死と妊娠騒ぎ、そして教師の自殺に同級生の自殺未遂とショッキングな事件が連続する事件の数々を、高校生の青臭さと純粋さを持った視点から同世代の友達との交流も合わせて語らせて、あえて難しくない事件を解りにくく書かせることに成功している。
そしてまた冒頭のエピローグで語られる先天的に心臓に異常を抱える妹春美に纏わるもう一つの物語の軸を煙幕で覆い隠すことにも成功している。
ただ非常に危うい設定の作品であると云わざるを得ない。
主人公の行動に矛盾がありすぎるのだ。
特に恋人宮前の死の真相を明かすべく、クラス全員の前で自分がお腹の子の父親だと公言し、その死因に教師の過剰な生活指導に原因があると糾弾する。しかしこういうことをしながらも自身の所属する野球部が地区大会に出られるように事を大きくすることを危ぶむ。
自分で騒ぎを大きくしておきながら、この心配がどうにもちぐはぐな印象を受ける。高校生の考えること、そう考えれば納得は行くかもしれないが、世を斜に構えた姿勢で見る、あの頃特有の生意気さと背伸びした大人の素振りを見せる主人公がこのような行為をすることがどうしても結びつかない。
しかしこれらは推理小説として捉えればの話であり、青春小説として捉えれば、この主人公の行動も理解が出来る。要するに自分に正直に生きることを信条とするがゆえの若気の至りなのだ。
最後に至って西原の真意が明かされるに当たり、それが明確に見えてくる。これは若さゆえの何物でもないな、と。こういう心情を書ける東野圭吾氏の若さを本作では買いたい。
しかし毎回思うがこの作者の筆致の淀みの無さはいったい何なんだろう?全く退屈を感じさせること無く最後まで読ませる。しかも巧みに物語に謎を溶け込ませ、読者に推理を容易にさせない。推理するためにページを繰る手を止めるよりもストーリーが気になって先に進めることを選択せざるを得ないのだ。
そして最後の一行のカッコ良さ。青臭さを感じる生意気な高校球児である主人公西原荘一のお株をグンと挙げるキメ台詞だ。
人を教育することに信念を持つ先生という大人と、大人と子供の境で日々を生きる高校生という人種が交わる閉鎖空間、高校。
この特異な空間で歪められた人間関係が生み出した悲劇。
個人的には悪人は誰もいなかったように思う。誰もが己の正義を貫こうと、己の護るべき物を護ろうとした結果ゆえに、これほどまでに捩れてしまったのだ。
成熟の域に達した東野氏が久々に放った青春学園ミステリは、やはり上手さの光る逸品であった。
紙の本
誤解が誤解を
2016/07/23 15:30
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投稿者:しまんちゅ - この投稿者のレビュー一覧を見る
始まりの事故は悲しい事実で、実際に起こりうることかもしれない。しかしそのあとはどうにも誤解が誤解を生んだだけで、ふたを開けて見ればという感じでした。
紙の本
本格学園推理
2001/02/13 19:45
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投稿者:真 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は学校を舞台にした、著者二作目の本格学園推理モノである。デビュー作でもある学園推理「放課後」は、教師の視点から描かれていたが、本書は生徒の視点から事件を描いている。
そのため高校生の恋愛などについて、微妙な心の葛藤が表現されていて、青春小説としても読める作品になっている。
ただ本書はトリックありの本格なのだが、公害問題などについても多少触れられている。作者はその後、いろいろなテーマを話の中に取り入れた話題作をいくつか発表しているが、本書に限ってはあまりうまく使われていない印象を受ける。だが本格物としては充分読みごたえのある作品になっていると思う。