紙の本
「死」をめぐる冒険?ファンタジー
2003/01/20 00:16
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投稿者:ひろぐう - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはベストセラーになった『蟻』の著者による、「死」をテーマにしたファンタジー(というか立派なSF)です。タナトノートとは、死を意味する接頭語thanato-と、航行者を意味する接尾語の-nautを組み合わせた造語。遊体離脱して死後の世界を探訪し、再び蘇生してその模様を語るパイオニアたち、すなわち、アストロノート(宇宙飛行士)ならぬタナトノート(死後世界航行者)たちの物語です。
まるで素潜りダイバーたちが世界記録を競って次々と記録を塗り替えていくように、死後の世界の真実に一歩一歩迫ろうとする模様が、漫画的でありながらも妙に説得力のある筆致で描かれていきます。神話から宗教、伝説、歴史、科学、医学、哲学、心霊現象から素粒子やブラックホールの現代物理学や宇宙論まで、すべてを包括して「死とは何か」を解明する壮大なフィクションに仕立て上げた作者の想像力には驚嘆すべきものがあります。
ただ、テーマや引用の割には、宗教的・哲学的思弁はそれほど深いものではないし、論理的整合性もかなりいい加減で、壮大なヨタ話といった印象もあります。「黄泉の国」の真実が明らかにされるにつれ、人々が一儲けしようとたくらんだり、善良になったり怠惰になったり自棄になったりする顛末は、まるでドタバタ喜劇のようです。しかし、気軽にぶっ飛んだお話を面白おかしく楽しみながら、「わたしはどこからきたのか?」「わたしは誰なのか?」「わたしはどこへいくのか?」といった人類の永遠の謎に思いをめぐらせるきっかけとなってくれる。これはまさに読書の醍醐味だといえるでしょう。(→ホームページ)
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この本の一節に『賢者は真実を捜し求め、愚か者は既に、それを知っている』という、核を突く表現が無性に好きだな。
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死後の世界ってあるの?
ないの?
あったとしたら、どんなだろう?
『死』という一見重そうなテーマをかろやかに書き上げた1冊。死後という誰も解けない謎にせまった作品。
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今生きているわたしたちの多くは、死を恐れながら生きている。死とは何なのか? 人間は死ぬと無になってしまうのか? 今、考え感じている「自分」というこの意識は、死んだら一体どこへ行ってしまうのか? 誰もが一度は考えることだが、これらがまったくわからないからこそ死を恐れる。
これらのことを知るためには、自分以外の誰かが一度死んで、再びこの地上にある肉体に戻ってきて、死後の世界はどうなっていたか、報告しなければならない。これ以外に死後の世界を知る方法はない。だからこそ実験を重ね、ついに死後の世界を見出してしまったという人々の話が、この小説である。
語り手であるミカエルは、子どもの頃、墓地で叔父の葬式中、少し離れた墓石の上に座っている少年を見つけた。少年はラウルと名乗り、死について語り始める。彼とはすっかり仲良くなり、生涯の友となった。大人になったミカエルは麻酔医になり、ラウルは国立学術研究センターの研究員として教授の肩書きを持つ。ミカエルは、疑問を抱きつつもラウルの研究に力を貸すことになった。
タイトルの「タナトノート」とは、ギリシャ語の「タナトス」(死)と「ナウテス」(航行者)の合成語であり、死後世界航行者のことである。この本は、ミカエルの日記で構成され、その日記の間に、神話などに出てくる死に関する記述や、その当時の社会状況を示唆する資料などが挟まれている。おかげで、この小説で起こっているさまざまな事件がかなり現実味を帯びている。
死後の世界の航行過程が非常にリアルで、本当にそうなっているのではないかと信じたくなってしまうほど。実際に見てきた人がいて、その人に話を聞いてきたかのように語られている(小説では実際に見てきたことになっているのだが)。個人的には、これを信じたいと思っている。そうすることによって、自分が今生きている意味と役割がわかるような気がして、自分としての「生」をまっとうしなくてはいけないと、生きることへの意欲が湧いてくるからだ。
4センチ弱もある670ページ分の厚さがまったく気にならなかった。これは、今のところ今年一番のお勧め本。五つ星をつけたい。どうしてこれがベストセラーにならなかったのか不思議なくらいだ。死について知りたいと思っている人はぜひ読んでみて欲しい。(2002.4.15)
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死後の世界について、世界各国の宗教、神話、哲学を引用しつつ、物語として語っていく、構成自体が面白い。
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これは面白かった!
人は死んだあとどこに行くのか。どういう世界で何があるのか、それを研究し探検したチームの話。世間から非難され特別だった事柄が一般に普及し旅行にまでなり、小学生の教科書で取り扱われるようになる。そしたら世界はどうなる?ただカルマを悪くしないためだけの代替可能な一生。それを退屈だと思いもしない人生。それってどうなの?
泣いて笑って失敗して、たとえ輪廻が転生しても「今生を精一杯生きる」ということが一番大切なことと、改めて教えてもらえる一冊。これは買ってもいいと思った。
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―2062年、死者の大陸への第一歩。
個人的な話をする。僕は数年前に祖母を亡くして、祖父母はすべていなくなってしまった。
そして祖母の葬儀の時、棺を持ち上げた時のあまりの軽さに驚いたのを覚えている。あの軽さを思い出すたび、ちょっとだけ考えてしまう。祖母はどこへ行ってしまったのだろう?
本書『タナトノート』はフランスの作家ヴェルベールによる近未来小説。死後の世界を解明しようと試みた人々を描いている。
叔父の葬儀の日、ミカエルは墓地でラウルと名乗る不思議な少年と出会う。死について語り明かすうち、やがて親友となる二人。そして大人になり麻酔医になったミカエルはラウルからある計画を持ちかけられる。それは死後の世界への探検という途方もない計画だった…。
古今東西のさまざまな伝承や宗教の膨大な知識が凝縮され、死後の世界の神秘を描き出している。ヴェルベールは登場人物の心理を丁寧に描きながら、文献の引用や報告文書など多様な文体を巧みに操り読者を未知の世界へ誘っていく。ここで描かれる死後の世界は、いろいろな宗教のエッセンスが織り交ぜられており、世界中の人々が訪れる場所という整合性をなんとか維持している。
面白いのは、最初おっかなびっくりだった死後の世界への旅が、やがてスポーツのように人々の間に浸透していく点。だれもが訪れるようになり、広告まで出現するようになった死後の世界…。物語は最後らへんではすごいことになってしまう。
それにしても「死後の世界」という「最後の未知の領域」に挑んだ本書は娯楽小説としてもめっぽうな面白さ。下手をすれば難くなってしまいそうな話も、独特のユーモアセンス溢れる話の運びで読者を飽きさせない。
そして世界中の死に関する知識の数々。日本のトピックもたびたび登場する(「死ぬことと見つけたり」の『葉隠』とかね)。
「タナトノート」(Thanatonautes)とは昏睡状態で死後の世界を探検する人々のことで、作者の造語。作中では「死後世界航行者」と訳されている。
※ちなみにアメリカのSF作家テリー・ビッスンが本書と同じようなテーマで短編を書いており、そちらは「冥界飛行士」(Necronauts)という名称にを使っている(『ふたりジャネット』所収「冥界飛行士」)。日本語の語感としてこれの方がカッコいい感じがする。
ついに「死後の世界」へ足を踏み入れてしまった人類はそこに何を見るのか? そして「神」はいるのか? 誰もが関心を持っているであろう「死」をテーマに描ききった娯楽大作。物語のラストは希望なのか否か。ぜひ自身の目で確かめて欲しい。
死ぬときは誰だって一人なのだから。
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タイトルと表紙が気になって読んでみたのだが、思ったよりエンタメ色が強く、そういう意味で期待外れだったので、我慢できなくなったら止めようと思いながら惰性で読んでいて、気づいたら読み終わっていた。
読後に、あれ? なんか面白かった? のかな? という妙な感覚を抱いた。
クライマックスがとても気に入ったのもあると思う。
さらに妙なのは、数年が経ってからジワジワきたこと。いやあ、彼らは素晴らしい面々だったなとか、数年を経て登場人物たちが愛おしくなった。
徐々にエスカレートしていく実験。もっと遠くへ、もっと遠くへと、この世から遠く離れれば離れるほど、肉体から外へ外へと行けば行くほど、深く深く自分の内面と対峙させられることになる被験者たち。それぞれの最終到達地点で何を思ったのだろう。
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フランス人の著者で私もフランス人の友達に紹介されて読みました。海外ではとても有名ですが日本ではあまり有名ではなく、著者の作品があまり翻訳されて日本で出てこないので悲しいです。
本作は、「死後の世界を探究する」ということがテーマです。死んだら何があるのかは人類がまだ未開拓の謎であり、やはり興味のあるテーマなのでおもしろく読めました。