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紙の本
芸術は先入観で見られ始めたら、それでもうおしまいなんだよね
2002/12/27 19:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
初版は1988年新潮社に出版された。今回は改訂版だそうだが、カラーの図版が無い点を除けば、本の構成としては文句なし。以前、同社ライブラリーの秦秀雄『やきものの鑑賞』を読んで「庶民の生活を切って捨てる姿勢が不快だ」「気に入ったものを使うという姿は好きだ」と思ったが、柳が唱える民芸が、結局は民衆から遊離した柳好みでしかなく、工人たちは無知で貧しくあるだけのものとして認識されていたことが見事に浮き彫りにされている。
朝鮮の磁器の白に「民族の哀しみを見る」と断定する柳の主張には事実の裏づけも理論も無く、思いつきでしかないという出川の指摘には説得力がある。それでも柳は、支持者たちから神として崇められる。その様子は新興宗教と変わりが無い。日本人の印象派好みもそうだが、明治以降の教育の刷り込み効果とでも言うのだろうか、パブロフの犬並みの右へ倣え的画一化した物の見方が嫌いな私には、出川の言葉が心地よい。
民芸と呼ばれるものの明確な定義も見事で、理解を助けてくれる。浜田、河合、富本、リーチなどの個人作家の活動や作品と柳の理論との乖離。しかも、彼らの活動が一分野でしかないための限界。それらを直視せず、理論化をなしえなかった柳や民芸運動と、アールヌーヴォーやアーツ・アンド・クラフト運動との相違。ラスキンやモリスとの関係への指摘など、本当に胸がすく思いだ。
無論、出川は、柳の美学、探し出し評価して選び抜いたものの素晴らしさを素直に認めている。しかしその影響力と宋悦好みという世界を確立したことへの評価と、その理論の限界は全く別の話だ。それについても、明確に切り離されて説明される。出川が今後、焼き物以外の世界へ、どのように目を広げるのか、楽しみでならない。藝術論として至高の一冊。
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