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はらっぱ 戦争・大空襲・戦後…いま みんなのレビュー
- 西村 繁男 (画), 神戸 光男 (構成 文)
- 税込価格:1,650円(15pt)
- 出版社:童心社
- 発行年月:1997.2
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絵本
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紙の本
小さな子どもたちの体のなかにはまだ深く埋め込まれていない「歳月の流れ」−−原っぱというひとつの空間の定点観測で、変貌の疑似体験。
2001/08/03 10:28
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
少し小高い丘の上や建物の上から、町はずれにある原っぱにカメラを向けて据えて、1934年から約60年間にあった変化を見せようという試み。視点が常に同じなので、構図はほぼ変わらない。全部で17見開き。17枚の絵で原っぱの移り変わりを眺めることができる。
絵本画家の西村繁男さんは、細密に描きこんだ絵で、少し昔の日本にはよくあったユニークな空間や光景を表現して評価の高い人である。また、戦後最大のベストセラーシリーズ<ズッコケ3人組>の那須正幹氏が広島生まれということがあって企画された『絵で読む広島の原爆』という絵本の絵を手がけている。いずれも大変な力作である。
長い時の流れのなかで起こる変化をお話絵本の形にまとめた作家としては、バージニア・リー・バートンがまず浮かぶ。のどかな田舎に建てられた一軒家の周囲に道や工場ができて、その家が昔の風景をなつかしく思い出す『ちいさいおうち』や、地球誕生から生命の誕生、人間への進化を芝居仕立てに展開する『せいめいのれきし』が定番絵本として知られている。
発想は似ているかもしれないけれど、バートンの絵本と比べてこの絵本の特徴的は、上に書いた通り、視点が変わらないということ。つまり、定点観測をしたらどうなるか…というアイデアだ。構成と文を担当した神戸さんの案なのだろうと思うが、これが絵の出来に面白い味を出す結果となっている。
たとえば、最初の見開きでは1934年頃の原っぱの「早朝」の様子が描かれている。人影まばら。前日の雨が上がったのか、水たまりがあちこちに見える。
次の見開きは同日の「午後」で、原っぱはチャンバラごっこや縄跳びに興じる子どもたちの天国である。それをねらった紙芝居屋さんや物売りが来ている。
続く見開きは同日の「夕方」で薄暗い。子どもたちは立ち去り、縁台の上で将棋指す人、キセル直しの羅宇(らお)屋さんが一角にいる。
同じ日なので絵の構図が同じ。でも、実にこまかな町並みや店の看板や遠くにいくつも見える煙突などを、画家は単純にトレースしたり、印刷技術で複写することはしていない。
3枚同じ構図の絵を、時間の経緯による人や天気や煙や洗濯物の変化を出して、一枚ずつきっちり手で描いているのだ!
だから、原っぱのトタン塀の向こうに隣り合う「昭和キネマ」という壁に描かれた文字が3枚の絵で微妙に違っていたりする。その隣の銭湯の敷地にある松の枝ぶりが違っていたりする。わざわざ描き起こすという画家の意地なのか絵心なのか、それに感嘆してしまう。それは、深読みすれば、人間の記憶の曖昧さや視覚の限界に極めて近いところに寄るようで興味をそそられる。
盆踊りの夜、雪積もった元日、「少国民」の相撲大会、防空演習、東京大空襲の日、焼け野原、敗戦の日、戦後の青空市、団地の完成など。実に雄弁な絵が続く。
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